Double Flagシリーズのコンセプト
日本は1942-1945年までシンガポールを占領し、昭和の時代に得た南の島ということから「昭南島(しょうなんとう)」と名づけた。それから70年あまり、現在シンガポールはアジアを牽引するほどの繁栄を誇り、その痕跡など何も残していないかのように見える。一方、その時代を生きた老人の口からは容易に「SYONAN」という言葉を引き出すことができるし、シンガポール国内に慰霊碑や資料館の類は少なくない。しかし、日本や日本人が攻撃されるようなことは皆無である。
他でもない日本人である私の目に、この状況はいかにも奇妙に映る。今ある現実の軽さと、歴史的事実の重さ、そのギャップを感じざるを得ないのである。
本シリーズは、日本とシンガポールの過去と現在を照らし合わせ、問い直す試みである。シンガポールの日常のありふれた食事を切り取り、日本のお子様ランチに見られる日の丸の爪楊枝を刺す。それは他愛ない飾りとも言えるが、背景に旭日旗を用いることで現実的な意味合いを帯びる。国旗を突き立てるということはしばしば征服の意味を持ち、旧日本軍の軍旗であった旭日旗については言わずもがなである。
旗の上の旗、記号的な軽さと現実的な意味の重さ、はたまた単なるアートか看過できない政治的プロパガンダか――さまざまな意味において二重(Double)構造とすることで、いわゆる歴史認識というものの本来的な曖昧性を炙り出したい。