レザー料理シリーズのコンセプト
国連の報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状2017」によると、世界の飢餓人口は8億1500万人にも上る。一方、先進国を中心に年間30億人分以上の食料(13億トン*)が廃棄されている。恐るべき現実であるが、この種の情報は繰り返し報じられ広く知られているせいか、もはや我々を驚かせない。
本シリーズは、この世界にパラレルに存在し続ける飢餓と飽食のいびつな構造を表象する試みである。ベルトやバッグなど皮革製品を食材とし、これをレザー料理というひとつの食のジャンルとして扱う。何かの比喩ではなく、実際、戦時の極限状態でベルトを煮て食ったというような話はいくつもあるし、チャップリンが映画「黄金狂時代」の中で、飢えに耐えかね革靴を食うシーンは有名である。その反面、レザーは高価なマテリアルとして、特に高級ブランドとは切り離せない。この二面性を持つ素材を調理し、さも美味そうな料理として提示することで、この悪い冗談のような現代社会を切り取ってみせたい。
*国連食糧農業機関(FAO)発表の情報を参照