勤倹と貨殖(現代語訳) (安田善次郎 (著), 松寛 (翻訳) /)

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誰でも知っているであろう、安田財閥の創始者、安田善次郎の自伝的一冊。

どこかのレビューにも書いてあったが、本多静六の「私の財産告白」に比べると、確かに面白味に欠ける。

言っていることは正しい。ぜんぶ正しい。しかし正しすぎて疲れるのである。

思うに、人間味というのは、完全よりも欠陥から生まれるもので、その意味において、彼はあまりにも完全なのである。

むろん、学ぶべきことは少なくないが、しかし、絶対に友達になりたくないタイプである。

努力によって富を積め元来、富を得ようとすれば、どうしても自分の努力によって得なければならないのである。この点については人に使われて働くのも、自分で独立して商売するのも同じである。自分で独立して店を持って商品を商いするのもつまり顧客に使われているようなものである。そして、何も人に使われているからと言って決して男子の恥辱とすべきではない。また独立しても別に人に対して誇るべき事ではない。

その行列には町人や身分の低い者は全て土下座をさせられた。私等は行列の前に土下座をするのは慣れているので不思議には思わない。行列でなくても物頭(訳注…中級の家臣)などに出会えば土下座させられたものである。ところが今度は普段我々に土下座をさせる物頭以上の勘定奉行がわざわざ丁寧に城下まで、お見送りをされたのであった。これを見た私はつくづく金の威力の絶大さに心を打たれた。人間は金を貯めるに限る。今から一生懸命に稼いで大金持になろう。せめて千両の資産家になりたい。それにはとても職人では望みがない。ぜひ江戸に出て商人になって大金持ちになろうという望みを持った。

人間の成功不成功を物質で表そうとすれば際限はないが、もし充分に世間から信頼さされ、また心中に何の不安もなく、煩悶もなく暮すことができれば、たとえ身は貧乏長屋住まいでも、その人は人生の成功者として見なしても問題はあるまいと思う。幾百万の富を積み、高位高官に上ったからといって、その人が世間に信用なく。心中常に不安を抱えて暮らすくらいなら何の意味もないではないか。これは大いに考えるべき事と思う。

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