第三次世界大戦はもう始まっている (エマニュエル・トッド (著), 大野 舞 (翻訳) /文藝春秋)

書籍第三次世界大戦はもう始まっている(エマニュエル・トッド  (著), 大野 舞 (翻訳) /文藝春秋)」の表紙画像

購入価格:850

評価:

この記事は約2分11秒で読めます

ロシアによるウクライナ侵攻から9ヶ月。しかし、日本を含む西側諸国は、ロシアは悪でウクライナは善という単純な思考からいまだ脱していない。

言うまでもなく日本は極東の国ではあるが、思想及びスタンスは完全に欧米のそれであって、西側諸国の一員であるという指摘は肝に銘じておきたい。

少なくとも、本書を読めば「ある日突然、ロシアが思いついたようにウクライナに攻め込んだ」わけではないことが理解できるはずだ。

ロシアが完全に悪なわけでも、ウクライナが善なわけでもない。ニュースでは、この戦争に関して、全くと言っていいほどアメリカやイギリスの名前が出てこないが、しっかりこの戦争の首謀者レベルで絡んでいる。

日本の方を相手によくする話ですが、たとえば、アメリカではとにかく裁判が多く、企業活動でも法的手続きが膨大にあります。そこで弁護士が手にする膨大な報酬も「 GDP」に含まれます。それに対して正直な方が多い日本では、訴訟も弁護士も少ない。その分、日本の GDPはアメリカより少なく計上されるのですが、一体、どちらの社会の方が「生産的」と言えるのでしょうか。

西側諸国は、ロシアの対外資産を凍結していますが、これは「所有権の否定」です。つまり、制裁を各国に強いることは、「外国資産を補償なしに国有化してよい」という反資本主義的思想を広めることなのです。そのことにアメリカや西側諸国はどこまで自覚的なのでしょうか。

ウクライナは正式にはNATOに加盟していません。しかし、ロシアの侵攻が始まる前の段階で、ウクライナは「米英の衛星国」「NATOの〝事実上〟の加盟国」になっていた、とミアシャイマーは指摘しています。アメリカとイギリスが、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからです。「ウクライナをすぐにNATOの一部にするとは誰も言っていない」というレトリックを用いながら、ウクライナを「武装化」し、〝事実上〟NATOに組み入れていたわけです。

なぜ中国よりもロシアが憎悪の対象になったのか (中略) 多くのロシア人は、北欧人のように金髪で、プーチンもまさにそうした見た目をしています。もっとざっくばらんに言えば、ヨーロッパ人から見て、ロシア人女性も、ウクライナ人女性と同じように〝人種的に美しい〟わけです。ということは、〝人種的な意味で理想的なヨーロッパ人〟と見られているにもかかわらず、ロシア人は憎悪の対象となっているのです。となると、これは、「ロシア人たちは金髪なのに我々と同じように考えていない」「我々と同じであるべきなのに異なる考え方を持っている」ことが理由だと考えるしかありません。要するに、〝人種的〟には完璧なのに〝考え方〟がよろしくない、と。他方、中国人に対しては「彼らはアジア人であり、そもそも我々と同じではない」と捉えられているがゆえに、そこまで問題となっていないのではないか、と。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

少女中国: 書かれた女学生と書く女学生の百年

2023/03/19   文学・評論, 読書記録

中国に関係する作家による小説がメインのため、日本とは切り離された世界のようにも思 ...

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会

2022/07/22   政治・社会, 読書記録

サラ金は「サラリーマン金融」の略だというのは常識なのだろうか。私はまずそこになる ...

映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~

2022/08/11   政治・社会, 読書記録

まず、1982年生まれの中年男性としては、本書を「ばかじゃねえの? 作品なめてん ...

子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から

一般的に日本人がイギリスと聞いて思い浮かべるイメージは決して悪くない。貧しくもな ...

勤倹と貨殖(現代語訳)

誰でも知っているであろう、安田財閥の創始者、安田善次郎の自伝的一冊。 どこかのレ ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.