第三次世界大戦はもう始まっている (エマニュエル・トッド (著), 大野 舞 (翻訳) /文藝春秋)

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ロシアによるウクライナ侵攻から9ヶ月。しかし、日本を含む西側諸国は、ロシアは悪でウクライナは善という単純な思考からいまだ脱していない。

言うまでもなく日本は極東の国ではあるが、思想及びスタンスは完全に欧米のそれであって、西側諸国の一員であるという指摘は肝に銘じておきたい。

少なくとも、本書を読めば「ある日突然、ロシアが思いついたようにウクライナに攻め込んだ」わけではないことが理解できるはずだ。

ロシアが完全に悪なわけでも、ウクライナが善なわけでもない。ニュースでは、この戦争に関して、全くと言っていいほどアメリカやイギリスの名前が出てこないが、しっかりこの戦争の首謀者レベルで絡んでいる。

日本の方を相手によくする話ですが、たとえば、アメリカではとにかく裁判が多く、企業活動でも法的手続きが膨大にあります。そこで弁護士が手にする膨大な報酬も「 GDP」に含まれます。それに対して正直な方が多い日本では、訴訟も弁護士も少ない。その分、日本の GDPはアメリカより少なく計上されるのですが、一体、どちらの社会の方が「生産的」と言えるのでしょうか。

西側諸国は、ロシアの対外資産を凍結していますが、これは「所有権の否定」です。つまり、制裁を各国に強いることは、「外国資産を補償なしに国有化してよい」という反資本主義的思想を広めることなのです。そのことにアメリカや西側諸国はどこまで自覚的なのでしょうか。

ウクライナは正式にはNATOに加盟していません。しかし、ロシアの侵攻が始まる前の段階で、ウクライナは「米英の衛星国」「NATOの〝事実上〟の加盟国」になっていた、とミアシャイマーは指摘しています。アメリカとイギリスが、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからです。「ウクライナをすぐにNATOの一部にするとは誰も言っていない」というレトリックを用いながら、ウクライナを「武装化」し、〝事実上〟NATOに組み入れていたわけです。

なぜ中国よりもロシアが憎悪の対象になったのか (中略) 多くのロシア人は、北欧人のように金髪で、プーチンもまさにそうした見た目をしています。もっとざっくばらんに言えば、ヨーロッパ人から見て、ロシア人女性も、ウクライナ人女性と同じように〝人種的に美しい〟わけです。ということは、〝人種的な意味で理想的なヨーロッパ人〟と見られているにもかかわらず、ロシア人は憎悪の対象となっているのです。となると、これは、「ロシア人たちは金髪なのに我々と同じように考えていない」「我々と同じであるべきなのに異なる考え方を持っている」ことが理由だと考えるしかありません。要するに、〝人種的〟には完璧なのに〝考え方〟がよろしくない、と。他方、中国人に対しては「彼らはアジア人であり、そもそも我々と同じではない」と捉えられているがゆえに、そこまで問題となっていないのではないか、と。

     

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