43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層 (石井光太/双葉社)
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18歳の無職少年を主犯とする三名が、13歳の中学1年生の少年を殺害した事件に取材したルポルタージュ。年端もいかない少年たちの過ちと捉えることも可能だが、私は先に書いた「英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記」との比較として読んだ。
幼さは免罪符か
少年犯罪は、取材する側からすれば、さまざまなハードルがある。実名はもちろん、顔写真も出せないのは、一般にもよく知られるところである。
運って何なんでしょうね。一つ確信をもって言えるのは、社会は、運が悪い人が損をするようにできているということです。そして運が悪い人は誰からも守ってもらえません。
遺族である父親の言葉だが、人生とは、究極、運という言葉に収斂されるのではないか。前掲の第二次世界大戦における死闘が余すところなく語られた本では、この事件の加害少年らとさほど変わらない年代で、しかしまったく別の理由で人間を殺したり殺されたりしている。
命の重みなんていう言葉は、口にすればするほど軽くなる性質のものだと思うのだが、どうだろう。
自己表現を知らない
私はこの事件の本質として横たわるのは、言語能力、コミュニケーション能力の稚拙さだと考える。
〈フルボッコだけにしよう〉 剛にしてみれば、やるなら素手で殴る程度にしてくれ、という意味だった。虎男からはすぐに返信があった。 〈いいよ〉 剛は遼太をつれて、川崎大師駅方面へ向かった。
このフルボッコという言葉ひとつにしても、それが何を意味するかは極めて曖昧である。それがちょっと威嚇するだけなのか、あるいは命まで奪うことなのか、その時々の雰囲気でいかようにも解釈される。
このくだりを読んで、思い出すことがあった。小学六年のころの休憩時間、クラスメイトが「アッパーカーット!」と言いながら攻撃してきた。私はこれを蹴りだと勘違いしてエビのように内側に身を縮こませた。それでそのパンチは、私の左目を直撃した。失明こそしなかったが、以來、私の左目の視力は急激に低下した。
恨んではいないし、せんない事故だとも思う。子供には子供のルールがあるのは知っているし、わかっている。いつか我が子ができた日には、是が非でも尊重すべきは子供たちの世界だとも思っている。しかし、と私は考える。
子供は子供でしかない
最近の子供はませているという。しかし、いくらませていても、生意気な口を叩いても、子供は一人では生きていけない。
保護者としての自覚が足りなかったのは父親も同様だった。彼は息子の管理を母親に任せきりにして、自分はまったくといっていいほど介入していなかった。それは父親が語る「(虎男が)酒を飲んだのは見たことがありません」「私はチェックしていません。仕事があってできませんでした」「(友人関係について)はっきりと確認していませんでした。息子を信じていました」といった言葉からもわかる。「信じていた」と語りながら、実際のところは「放任していた」のだ。
幸運にも私は素晴らしい家庭に育った。だから、恵まれていない家庭のことを想像するのは難しい。もっと、全然わからないと言っていい。しかし、それでも思うのだ。どんな親でも親は親なのだし、子供は子供でその親につき従う他ないのではないかと。
事件の加害者らの年齢は、ちょうどその境のように見える。もう親は必要ないかのごとく振る舞いながら、心はいまだどっぷり依存してとめどない。
それを第三者的な視点で、自分は今このような状態であると客観的に把握できるようになるのは、もっと、もっと、もっと先のことである。
自分が何をしているのかもよくわかっていないような人間に、おまえはこれこれをやったから死刑なんだと言い渡したとして、それは果たして一般的な大人の期待するような刑罰として機能するのか、甚だ疑問である。
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