東京ではない街としての広島・福岡

  2017/08/22

六年ぶりに福岡に行った。

博多駅に降り立った瞬間から、心が浮き立つ感覚を覚えた。広島では一度も感じたことのない感覚。

思っていた。広島に魅力を感じないのは、東京ではないからではないかと。東京以外に住む選択への口惜しさではないかと。

しかし、福岡に行き、そういうわけでは決してないと思い知らされた。

懐かしさはもちろんあるが、それだけでは決してない。街並みや人の方言、そういったすべての空気に、なんとも言えない心地よさと愛おしさを感じた。

広島の街並みや人へはまったく感じられなかった、それは愛着というべき感情だった。

愛着というものは言葉にはできないし、理屈ではない。たとえば、カバンか何かを気に入っている。かなり薄汚れているし、時代にそぐわない雰囲気さえある。しかしなぜだか妙に気に入っている。

一応の理由を並べ立てることはできる。思い出の旅行先で買ったから、好きだった人がプレゼントしてくれたから、とか、それなりに理由はある。

しかしいくら理由を並べ立てたところで、愛着の源はそのすべてであって、決定的な何かひとつによるのではない。それこそ、"とにかく"気に入っている。

ぼくが福岡に感じたのは、まさにそういう感覚だった。言葉で説明するのは難しい。なぜ広島には愛着を感じず、福岡には愛着を感じるのか。

懐かしさだけなら、広島のほうがよほど長く暮らしたわけで、もっと愛着があったっていいと思う。しかし、どうにもこうにも好きになれない。

というか、別に無理に好きになる必要もないわけで、どこに住んだって自由なのだ。

東京に居たころも、常々「永住するなら福岡」だとうそぶいていたが、あながちそれは戯言でもなかったのかもしれない。

とりあえず今は、好きでもない広島に留まるだけの理由を見出せないし、実際、理由など無い。それだけは完全に偽りなく正直な気持ちだと思う。

いったいなんなんだろうなおれは、という気がしなくもない。たまたまそこで生まれたとか、結婚だとか仕事だとか転勤だとかで、往々にしては人は意図しないところに住みつくことになるわけだが、これといってぼくには何もなく、少なくとも今は何もなくて、あるのはただ、満足のいくように、思うままに生きていきたいという、ごくごく単純な気持ちだけなのだ。

しらふで絵を描きながら、まじめにぼんやり考えてみるが、その選択は自分にとって、実に自然で、正しいように思える。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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