英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記 (舩坂弘/潮書房光人新社)
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著者の舩坂氏は、1944年の第二次世界大戦下、死闘の繰り広げられたパラオ諸島の南にあるアンガウル島から、奇跡では足りないほどの奇跡的生還を果たした人である。
人の生き死には運でなく
彼は腕を打たれ足を打たれ腹を打たれ、さらにはその傷口からウジがわいてもなお生きて、這いつくばってでも敵である米兵を一人でも倒すべく画策し続けた。そこで彼をして生き延びさせたのは生きようとする気力の強さだったという。
ひとつ気になったのは、この倒すという表現。殺すという表現も出てくるが、やはり戦場で戦う人の感覚としては、倒すなのだろうと思う。
舩坂弘氏は私の剣道の先輩である。
なんと、本書の序文はかの三島由紀夫が書いている。それでミーハーな私はつい、終戦記念日云々ではなく、ネームバリューに負けて読み始めてしまったというのが本当のところである。
純粋性を疑う
若くして散っていった日本兵たちの死にざまは、世間で言われているような犬死ではなかったのだと、著者は繰り返し強調する。
「行くぞ。男子の本懐、面目を果たすときだ。靖国神社で会おう!」 と一言、 「突撃! 進め!」 との号令のもとに、全員が群がる敵兵に白刃をかざして一団となってとび込んだ。
純粋に祖国を思う愛国心、親兄弟の住む日本を鬼畜米英から死守せんとする気概、そのような思いでもって戦ったのだ、と。
この純粋という言葉も何度か登場する。我々はふつう、純粋という言葉を好ましい形容として用いる。しかし、純粋は狂信に似てはいないか。もっと、見分けがつかないものなのではないかと、私は考える。
先達を愚弄する気はさらさらない。ただ、彼らに対して純粋という言葉を連発することについては、妙に引っかかるものがある。
物質狂時代
負けるのは明らかだったというのは、現代の歴史的解釈では常識である。しかし、それは競馬のレースなんかの後になって訳知り顔でこうなると思っていたとうそぶくようなもので、やはりその時は誰にもわからなかったのである。
「ダメだ。これじゃダメだ。日本は米軍より五十年は遅れている」 と幾度も呟いていた。一方では洞窟の中で一滴の水もないのに、米軍テントの外では海水から濾過した水でジャブジャブと洗濯をしているではないか。私はつくづく先進国の科学の発達に驚き、物量戦の敗北を感じていた。
そして戦後、米国に憧れ、モノを追い求めて働きまくり、何もかもすっかり欧米並になって、いま、現代。しかし、よくやったと手放しで喜ぶ人は少ない。表面だけはコピーできたが、その実、哲学がないからだろう。
米国には、モノを作りまくり使いまくり捨てまくるという、良し悪しは別として、揺るぎない哲学がある。
ロックスターの外見をいくら真似てみても虚しく、勝てる日は永遠に来ないのと同じだろう。
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