無名の人生 (渡辺京二/文藝春秋)

書籍無名の人生(渡辺京二/文藝春秋)」の表紙画像

購入価格:815

評価:

この記事は約2分34秒で読めます

人生も折り返し地点を過ぎ、振り返れば名誉欲の追求に汲々としてきた我が人生だが、いまだその名誉を得られていないということもあり、ことのほか沁み入るくだりが多い。

人生のむなしさ、そもそもこの世は「空」であるなんてのは今に始まった話ではないが、本当の満足はどこにあるのかとあらためて考えてみると、目指すべき方向性を誤っていたのかもしれない。

名誉欲に限らず、欲はエネルギーの源であるので、うまくコントロールすれば人生の推進力になることは間違いない。実際、いま私がここでこうしているのも、欲の強さゆえだったろうと思う。

若かりし頃は、本書のような主張は「負け犬の遠吠え」であって唾棄すべきものと切り捨てていた。しかし今は、無名とか有名とか、そもそも生きること自体、だいたいどうでもいいと思えるくらいには、歳をとったらしい。

従来の歴史家たちは、江戸期の刑罰がいかに残酷であったかを強調しました。「十両以上の盗みは打首」であることをもってしても、いかに残酷かが分かるというのです。しかし、実情はかなり異なっている。確かに、「十両以上打首」と法律の文面には記されているけれども、そんなことで打首にしたら、盗まれたほう、つまり訴え出たほうも寝覚めが悪い。実際には、五十両盗まれても百両盗まれても、「九両五分」と届けるように幕府の役人が指導していたのです。役人だって寝覚めをよくしたいですから。

現代を一言でいうなら、「個人主義の時代」。そしてこの時代の象徴として、若者の過剰な自己愛があります。こういう自己愛は、「独りになる」こととは正反対のものです。「自己実現」「個性」「自分探し」などと盛んに言われますが、結局は、皆が「自己顕示」に汲々としているだけでしかない。

だいたい、「才能」とか、「他人に抜きん出た個性」など、そうそうあるものではないのです。すべての子供には才能が隠されているから、それをひき出して輝かせてやらなければ、というのは戦後民主主義教育の根底にある考え方ですが、欺瞞でしかありません。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

レイシズム

言わずと知れた菊と刀の著者であるが、このような本を書いているとは知らなかった。 ...

敗軍の名将 インパール・沖縄・特攻

2022/12/16   政治・社会, 読書記録

しばしば耳にする言説、太平洋戦争と東京オリンピックは重なるというのももっともだと ...

第三次世界大戦はもう始まっている

2022/11/12   政治・社会, 読書記録

ロシアによるウクライナ侵攻から9ヶ月。しかし、日本を含む西側諸国は、ロシアは悪で ...

ワニはいかにして愛を語り合うか

タイトルがよくない。むろん、キャッチーさを狙ったつもりだろうが、おもしろくない。 ...

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

今も一流企業として繁栄しているあの企業もこの企業も、実はほとんどが非常にあいまい ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.