無名の人生 (渡辺京二/文藝春秋)

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人生も折り返し地点を過ぎ、振り返れば名誉欲の追求に汲々としてきた我が人生だが、いまだその名誉を得られていないということもあり、ことのほか沁み入るくだりが多い。

人生のむなしさ、そもそもこの世は「空」であるなんてのは今に始まった話ではないが、本当の満足はどこにあるのかとあらためて考えてみると、目指すべき方向性を誤っていたのかもしれない。

名誉欲に限らず、欲はエネルギーの源であるので、うまくコントロールすれば人生の推進力になることは間違いない。実際、いま私がここでこうしているのも、欲の強さゆえだったろうと思う。

若かりし頃は、本書のような主張は「負け犬の遠吠え」であって唾棄すべきものと切り捨てていた。しかし今は、無名とか有名とか、そもそも生きること自体、だいたいどうでもいいと思えるくらいには、歳をとったらしい。

従来の歴史家たちは、江戸期の刑罰がいかに残酷であったかを強調しました。「十両以上の盗みは打首」であることをもってしても、いかに残酷かが分かるというのです。しかし、実情はかなり異なっている。確かに、「十両以上打首」と法律の文面には記されているけれども、そんなことで打首にしたら、盗まれたほう、つまり訴え出たほうも寝覚めが悪い。実際には、五十両盗まれても百両盗まれても、「九両五分」と届けるように幕府の役人が指導していたのです。役人だって寝覚めをよくしたいですから。

現代を一言でいうなら、「個人主義の時代」。そしてこの時代の象徴として、若者の過剰な自己愛があります。こういう自己愛は、「独りになる」こととは正反対のものです。「自己実現」「個性」「自分探し」などと盛んに言われますが、結局は、皆が「自己顕示」に汲々としているだけでしかない。

だいたい、「才能」とか、「他人に抜きん出た個性」など、そうそうあるものではないのです。すべての子供には才能が隠されているから、それをひき出して輝かせてやらなければ、というのは戦後民主主義教育の根底にある考え方ですが、欺瞞でしかありません。

     

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