作家とギャラリーの取り分について
作家の人たちと話すと、たまにこの話題になる。要するに金の話である。
世の中は、何を売買するにも色んな人の取り分というものがある。コンビニでおにぎり一つ買うにしてもそうだ。あなたの払った120円が、コンビニの店長が飲む缶コーヒー120円にそのまま循環するわけではない。
あなたが払ったお金は、おにぎり工場の運営費になり、配送業者の賃金になり、コンビニの人の賃金ともなる。それから消費税も含まれているので、どこぞの官僚の懐にも収まるのかもしれない。たとえカタギの身とて、金の流れはかくもややこしい。
ところで、作家の取り分とギャラリーの取り分についてである。ちなみに、ここで言う作家とは、絵描き、画家のことである。
まず、作家は作品を売っている。嘘ではない。一般に日本人のイメージする芸術家像は、山下清と岡本太郎を足してゴッホで割ったようなようなものだから、無理もない。それから、別に狂ってもいない。病んでいる人は少なくないが、ほとんどの人は真面目にバイトなんかもしているし、税金も年金もちゃんと払っている。そう、芸術家の内情はいたって普通なのである。
だから、取り分の話になると神経質になるのは、サラリーマンの給与の上がる下がるの喜憂と変わるところがない。違うのは、何をもってお金を稼ぐか、その一点だけである。
作家は絵を描いて売る。だからまとまった数の絵ができたら、農家の野菜と同じく、出荷してしかるべきところに陳列しなければならない。と、ようやくで本題に辿りついたが、その際の取り分についてである。
たとえばデパートで展示する時は、作家の取り分は3割。残りはデパートと仲介するギャラリーの取り分となる。だから仮に100万円で売れても、あなたがもらえるのは3割の30万円である。あるいはギャラリーで展示する時の作家の取り分は5割。残りはギャラリーの取り分。つまりあなたの絵が1,000万円で売れても、あなたがもらえるのは5割の500万円である。むろん、この配分は様々あるので、あくまでも例である。
さて、ここで二つの考え方がある。一つは、心身をすり減らして絵を描いたのは他でもない作家の俺だ。どこの馬の骨とも知れないデパートの何某、どこぞの偉そうなギャラリストの何某に金を抜かれるなんて損でしかない。願わくば顧客と直取引をして100%の代価を得たい。実際、そのようにしている人もいる。
もうひとつは、デパートの方、ギャラリストの方、その他関係各位の協力があってこそ作品が売れる。だからその取り分は当然の対価である。
おそらく学生時代の私であれば、迷わず前者であったろうと思う。しかし今、私は確実に後者を選ぶ。
しかし、誤解しないでほしい。それはなにも歳を重ねたことにより、我欲が抑えられ、人様に対して感謝できるようになったというようなどうでもいい説教ではない。今でも私は十分にエゴイスティックで唯我独尊なのだ。
単に、その方が最終的には得になるだろうと思うだけである。考えてもみてほしい。あなたがいくら金をもらおうが、喜ぶのはあなただけなのである。あるいはあなたの家族くらいのものである。しかし、あなたの働きによって千円でもどこかに落ちるなら、誰かが喜ぶのである。しかも、それは関心や注目となってあなたに返ってくる。
企業間の関係を考えてみればわかりやすい。ある企業と関わって何がしかの利益が出たとする。当然、今後もお付き合いしたいと思う。すると、その企業の動向を気にかけるようになる。何か新しい動きがあれば連携の可能性を考える。しばらく音沙汰がなければ連絡してみよう、などとなるのは自明ではないだろうか。
逆に言えば、そのようなことを、いったいいくら払えばやってくれる者があるだろうか。たぶん、その対価は安くない。しかも、完全に金で動かしている以上、金が尽きればそこで終わりである。
お金を落とすとは、そういうことである。目先の数万円、数十万円のために、何を失い、何を得るのかを秤にかけてみればいい。
ちなみに、私の作品を取り扱って頂いているギャラリータグボート代表の徳光さんは、取り扱い作家に向かって「直取引でもなんでも、好きにやっていい」と言い切る。目をつむるならまだしも、ギャラリー泣かせの直取引を自ら許可するギャラリストなど、私はちょっと聞いたことがない。
▼タグボート/現代アート販売(通販)
http://ec.tagboat.com
その豪胆さには心服するが、しかし、私は上述のような理由から、むしろ直取引をしたいとは思わない。私ばかりをいくら喜ばせてもしょうがないと思うからだ。そういうわけで、私の作品に興味のある向きは、たとえ家族でも以下の作品販売ページから購入していただきたいと思う次第である。
▼タグボート/新宅睦仁作品販売ページ
http://ec.tagboat.com/jp/products/list.php?author_id=100265&tngs_flg=0
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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