ヒトはなぜ自殺するのか:死に向かう心の科学 (Jesse Bering (著), 鈴木光太郎 (翻訳) /化学同人)

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自殺の衝動は生の衝動でもあるとはよく言われることだが、果たして本当だろうか。

みなそれぞれの複雑怪奇な意志や思いで持って死を選ぶ。特にデュルケームの、自殺者は驚くほど冷静で淡白であるという指摘には唸らされた。一般にイメージされるような、涙を流しながら錯乱状態で自死に及ぶ者など少数派であろう。

豊富な事例や研究が紹介されており、単なる自殺の是非を超えた考察の助けになる。

「典型的な自殺は、自分の首を切りながら、同時に助けを求めて大声をあげるというもので、そのどちらも自殺の真の側面である*」。死にたいけれど救われたいというこの両面性こそが、自殺する人の絶望を強めている。

心は他者の思考の内容に注意が向くように進化してきたため、私たちの存在は、他者がどう思っていると思うかに左右される。動物界ではきわめて特殊と言えるこの心理こそ、人間であることの究極の重荷、意識をもつがゆえの苦難である。

現代の高校は人為的過ぎる社会環境であり、私たちの脳はその環境と激しくぶつかり合う。言うならば、私たちが災難を招き入れている。あえて数百人の若者を長期にわたって施設のなかに囲い込み、一年という狭い期間内に生まれた者だけで社会を構成させ、しかも性的競争がピークに達し始め、ことばの暴力や身体的暴力も激しさを増す時期にそうしているのだから、いじめが解決の難しい問題になるのは火を見るより明らかである。自分が人から好かれず、魅力に欠け、役立たずだと思い、しかも廊下でホルモン全開の級友たちがそう言っているのを耳にしてしまった孤独な女子生徒にとって、そうした負のフィードバックは社会的な脳のスイッチをオンにし、自分がのけ者であるとか、許されないことをしてしまったといった誤った印象を生じさせる。日々のこのフィードバックは、結局はわかること──「広い世のなかに出てみれば、たかが高校」──とは不釣り合いに、彼女のなかに自殺の想念を含む信念を生じさせる

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