オランダを知るための60章 エリア・スタディーズ (長坂 寿久/明石書店)

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オランダと日本の関係は400年以上で、たとえば長崎の出島のことを知らない人はいないだろう。

しかし本書を読めば、それはオランダの歴史や文化のほんの一部であって、もっと知るべき、学ぶべきことが山ほどあることを痛感させられる。

麻薬は、オランダでももちろん公式には違法だが、個人使用の大麻(マリファナ、ハッシッシのソフトドラッグ)の少量所有は訴追しないという黙認政策をとってきた。この国ではコーヒーショップで自由にソフトドラッグを買うことができる(但し一回三グラム以内)。この取引は通常の商品の取引と同様に課税(付加価値税一五%)される。オランダがソフトドラッグを実質的に「自由化」したのは七〇年代である。

アイセル湖の水はその後淡水化し、現在ではこのアイセル湖の水が、川と氷河に押し流されてきた湖底の砂に濾過され、浄水され、その濾過した水がオランダ人の飲料水として供給されている。この濾過効果の故に、オランダの水は他の欧州各国の水と違いそのまま飲めるのだ。

オランダの民主主義にとって、水との闘いの歴史が与えた影響も大きかった。オランダの独特の社会システムは、この国の風土、とくに水との闘いの歴史に起因している。この国は水を管理(治水)することによって、国家を造ってきた。堤防は一カ所でもれたらおしまいである。だから治水は全員参加で、皆と相談しながら、コンセンサスを得ながら行う管理を必要としてきた。そこで治水の前には皆が対等であるノン・ヒエラルキーの平等を原則とする社会ができ、洪水対策・治水対策としてどの方法が最もいいのか激しく自己主張を闘わせるが、洪水が来るまでに合意する、つまり、議論のための議論ではなく、合意のための議論を行いつつ、機能的・実際的に合意して対処する文化が生まれ、それが米国や英国とも違う「オランダ的民主主義」を創り上げてきた。

アムステルダムは運河を築いて街を造ってきた。運河沿いの家は、場所として限られると共に、それだけで船が横づけできる流通拠点となるため非常に貴重であった。そこで間口の大きさに応じて税金が設定された。そのため、運河沿いの家は、間口の小さい、しかし奥に細長く伸びた建物となった。これもオランダ人を実際的かつ倹約的性格にした風土の一つかもしれない。

     

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