映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ (稲田 豊史/光文社)

書籍映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~(稲田 豊史/光文社)」の表紙画像

購入価格:990

評価:

この記事は約2分46秒で読めます

まず、1982年生まれの中年男性としては、本書を「ばかじゃねえの? 作品なめてんのかよ」という反感とともに手にとった。が、しかし結論、これはリアルな必要に迫られた処世術であることを認めざるをえない。

必要は発明の母とはよく言ったものだ。なんと言っても、今の若者には金がない。余裕もない。そして時間もない。だからこそ、その根底にあるのは「損したくない」という強い気持ちというか、いっそ強迫観念である。

老婆心ながら思うのは、それで彼ら/彼女らは幸せになれるのだろうかということ。むろん、早送りしようがしまいが、幸せになること(人生に満足すること)が、あまりにも難しい時代なのかもしれない。

大学生の彼らは趣味や娯楽について、てっとり早く、短時間で、「何かをモノにしたい」「何かのエキスパートになりたい」と思っている。彼らはオタクに〝憧れている〟のだそうだ。ところが、彼らは回り道を嫌う。膨大な時間を費やして何百本、何千本もの作品を観て、読んで、たくさんのハズレを掴まされて、そのなかで鑑賞力が磨かれ、博識になり、やがて生涯の傑作に出会い、かつその分野のエキスパートになる――というプロセスを、決して踏みたがらない。

他人に干渉しない。すなわち批判もダメ出しもしないし、されることもない。これは一見して「他者」を尊重しているように見えるが、そこには「自分と異なる価値観に触れて理解に努める」という行動が欠けている。単に関わり合いを避けているだけだ。それゆえに、自分とは考えの違う「他者」の存在を心の底からは許容できない。異なる意見をぶつけられた時に、「あなたと私は意見が違いますね」で終わりにできない。自分に向けられる批判に耐性がない。流すことができない。心がざわつき、「不快だ」と遠慮なく悲鳴をあげる。これは多様性には程遠い、むしろある種の狭量さだ。Z世代が得意だとする「多様性を認め、個性を尊重しあう」には、「異なる価値観が視界に入らない場合に限る」という但し書きが必要なのかもしれない。

「倍速視聴や10秒飛ばしなどを駆使して映像作品をどう観ようと、すべて視聴者の自由」と主張するある大学生は、その根拠を奇しくも〝生産者〟という言葉を使って説明した。「製作者が通常速度で観ろと視聴者に強要するのは、生産者が消費者のニーズに応えず、一方的に作りたい製品を生産している状態に等しい」

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んでも一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。日々の出来事や、思ったこと感じたことをとりとめもなく吐露。死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会

2022/07/22   政治・社会, 読書記録

サラ金は「サラリーマン金融」の略だというのは常識なのだろうか。私はまずそこになる ...

マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力

つい最近まで、働いてもらっているスタッフやパートナーの気持ちなど考えてもみなかっ ...

超訳 イエスの言葉

聖書を読むよりもわかりやすいことは確かである。しかし、そのわかりやすさによって、 ...

FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド

知人に勧められたある動画の中で紹介されていたので、動画は最後まで見ずに購入。 今 ...

日本人が誤解している東南アジア近現代史

2023/02/21   歴史・地理, 読書記録

ページをめくるごとにうなってしまう。 日本人が心の底ではアジアを見下していること ...