LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略 (リンダ・グラットン (著), アンドリュー・スコット (著), 池村 千秋 (翻訳) /東洋経済新報社)

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しばしば時間がないと、人はいう。そこで長寿は、無い時間が増えることになるのだろうか。そして、ゆとりある人生が生まれるのだろうか

まさか、そんな夢物語だれも信じない。十中八九、生きる糧を得るために四苦八苦する期間が延長されるだけだろう。実際、本書のほとんどは、仕事のキャリアと金のことに割かれている。

時間の価値が変わる

現代、人は時間に支配されて生きている。たとえば30分の空き時間で旅行には行かないし、あるいは三日間使って夕食を作ることもない。

時間は枠組み、フレームである。だから人は、20代ならまだできるとか、40代ではもう無理というようなことを言う。長寿はそのフレームを拡張するのだ。

100年ライフにおいて70歳で不幸せな結婚生活を送るのと、75年ライフにおいて70歳で不幸せな結婚生活を送るのでは、大違いだからだ。この点は、すでに現実になりつつある。社会全体の離婚率が下落するのをよそに、高齢者の離婚率は上昇しているのだ。アメリカでは、離婚の10件に1件は、当事者の少なくとも一方が60歳以上だ。60歳以上の離婚率は、1990年に比べて2倍に上昇している。イギリスでは、その割合が3倍以上に上昇した。人生が長くなれば、離婚してもそこから立ち直り、金銭的資産と無形の資産を築き直せる時間的余裕があると、人々は気づきつつあるのだ。

家族や友人知人、そのような人生に張り合いと活力を与えてくれる人間関係のことを、本書では無形資産と呼んでいる

数値化できない、目に見えないものを資産としてカウントする点に本書の慧眼があるのだという評価を見かけたが、確かにその通りであろう。

お金が無ければ生きていけないように、人間、一人では生きてはいけない。

圧力としての長寿化

歴史とは変化の連続、その記録である。たとえば産業革命やIT革命は、その前後で別次元ともいえる世界へと変貌を遂げた。

賦課方式の年金は、言ってみれば手の込んだネズミ講の様相を呈しはじめた。これまでの世代は、納付した金額に対してあまりに多くの給付を受けてきた。しかし、ネズミ講は、新しく加わるメンバーが増え続けなければ維持できない。この条件は、出生率が下落している先進国では満たせなくなりつつある。その結果、既存の制度の持続可能性が危ぶまれるようになったのである。

重要なのは、べつに人間は変わりたくて変わるのではないということだ。実際、ほとんどすべての人が愛するのは、変わりない穏やかな生活であろう。

しかし長寿は変化を強いる圧力であって、我々は否が応でも変わるしかない。

結局、金の問題

長生きするのはわかった。そのためには金が必要なのもわかった。その金を得るには戦略的なキャリア形成が必要なこともわかった。

しかし欠落しているのは、そもそもなんのために生きるのかという、もっとも根本的な観点である。

アメリカ建国の父の一人であるベンジャミン・フランクリンの有名な言葉に、「この世で確実なものは、死と税金だけだ」というものがある。いずれも不幸の種というわけだが、長寿化も死と税金の問題と思われているために、不人気なテーマなのだろう〜中略〜寿命が延びても引退年齢が変わらなければ、大きな問題が生じる。ほとんどの人は、長い引退生活を送るために十分な資金を確保できないのだ。この問題を解決しようと思えば、働く年数を長くするか、少ない老後資金で妥協するかのどちらかだ。いずれの選択肢も魅力的とは言い難い。これでは、長寿が厄災に思えたとしても無理はない。

「長生きしたい」と人は言うが、それは「死にたくない」と同義であって、生きることにそこまで積極的に情熱を注いでいる人は多くないと、私は思う。

たいしてやることもないのに、死にたくないという気持ちばかりが膨らむから、長生きが「リスク」になる。そしてリスクに「対処」するという考え方が、人をして後手に回らせ、消極的な生き方へとつながってゆく。

命とは燃やすものであって、しがみつくものではない。そうであればこそ、用が済んだらさっさと死ぬべきではないだろうか。

百年ライフにしろ千年ライフにしろ、なんのために生きるのか、その永遠の命題への問いなくして、本当の意味での豊かな人生はあり得ないと思う。

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