唾液のフィールドを駆け抜けて

オランダの国民的スポーツと言えばサッカーである。日本で毎日のようにやっている野球中継が、そのままサッカーになっていると思えばいい。

私はスポーツ全般に興味がないものの、幼少の時分に何をとち狂っていたのか「Jリーガー」を夢見ていたのでルールくらいは知っている。万年補欠の粉ポカリ作り担当ではあったが、それでもプロのプレーを眺めていれば、うまいなあ、くらいは思う。

しかし、技量なんかよりも目につくのはラフプレーの多さである。どう見てもシャツを引っ張っていたり、足をひっかけたり、なんなら跳び蹴りや頭突きまで繰り出している。

やられた相手も慣れたもので、転び方、痛がり方が堂に入っている。練習メニューに演技指導が入っているのかと思われるほどである。ひとしきり痛がってみせ、審判の判断が下されるが早いか、あれが欲しいと泣きわめいていた子供が脈なしとみた時のように、けろり、悪びれもせず走り出す。

まあ、百歩譲ってラフプレーは欧米の苛烈な成果主義ゆえのプレッシャーが引き起こす暴走だと目をつむるとしよう。だがもうひとつ、擁護しようのない行為がある。選手がそこここでやる「ツバ吐き」だ。

ゲームの流れがちょっと落ち着こうものなら、すぐに横を向いてペッとやる。育ちなのか、癖なのか、チョイ悪を気取っているのか知れないが、とにかくは、多くの選手がこれをやる。

サッカー選手を夢見る少年少女にどう感じているのか聞いてみたいものだが、少なくとも、私の目にそれはカッコ悪い、というか単純に汚い。

世界青少年サッカー協会なんて団体があるのか知らないが、あれば公式見解を伺ってみたいところである。

なにはともあれ、昨日も今日もどこかしらでサッカーの試合があり、そのたびに、どいつもこいつもツバをペッペかペッペか吐きまくってとめどない。非常に汚い。それこそ「唾棄」すべき事態である。

そこで思う。マナーの観点やスポーツマンシップ、ジェントルマンとして云々の観点はさておき、単純に気持ち悪くないのだろうか。

遠目には青々と美しく見える芝のフィールド。そのあちこちに、ブービートラップよろしく、あらゆる人種の多種多様なDNAおよび細菌・ウイルスを含んだバラエティ豊かな粘質と形状および泡立ちの唾液がまき散らされているのである。

ちょっと転倒したら、熱くなってスライディングでもしようものなら、ケツや背中、膝や腕、なんなら髪や顔面にだれぞやのツバ――なんならさっき吐いた自分のツバで自業自得となる――運が悪けりゃ痰まじり、最悪の場合は痰そのものがべったりねっとり付着するのである。

私など、想像するだけで鳥肌ものだが、しかし、そんなことはこれっぽっちも想像しないからこそ、ツバだらけの草の上であれほど無心に飛んだり跳ねたりできているのであろう。

あるいは、こんなどうでもいいことを考えてしまうのは、日本人の潔癖極まる衛生観念のせいなのかもしれない。

日本人はあらゆる不潔を想像する、否、想像してしまう。近年は強迫観念、ビョーキと呼んで差し支えないと思われることも少なくないが、なんにしろその想像力にかけては文句なく世界一だと断言したい。

たとえばケツを拭くとき、拭いたあと。われわれは想像する。紙で拭いきれなかったクソの残りっカスがケツの肛門のしわ、いわゆる菊の紋のヒダにこびりついていることを。

あるいは、陰毛と違って自分では見えないせいで、いくつのころに生え出したかも知れない伸び放題のケツ毛の一本一本にべったりからみついていることを。

そのおぞましさや、想像するだにケツ毛もろとも身の毛がよだつ。そういう感覚があるからこそ、日本人はウォッシュレットを発明できたのだ。

必要は発明の母である。日本よりよっぽど平均所得の高い欧米圏でさえいまだ一般に普及していないことを考えると(国際空港でさえ設置されていない)、たいして必要と思われていないのは明らかだろう。

もし本当に必要とされていれば、TOTOやINAXは今ごろGoogle、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftからなる「GAFAM」にも食い込んでいるはずだ。

もっと、GAFAMよりホットでクールな、TOTO、音姫、INAX、ルック、エリエールからなる「TOILE」が世界の頂点に君臨していてもおかしくないのにそうなっていないのは、ケツに少々クソがついていてもノープロブレムだと思っている衛生レベル低劣な外国人が大半だからである。いや、あくまでもクソの話ではなくツバの話なのだが、究極、衛生観念それ自体の問題に行き着いてしまうのである。

つい昨日もバーでサッカーを見た。今となっては反射的に、選手のプレーや勝敗の行方なんかよりツバを吐く選手を探してしまう。

そして難なく見つけると、そのツバの吐かれた位置を覚えておく。そして今度は、そのツバを踏むドジや、転ぶマヌケはいないかと、ツバの行方を追いかける。もはや何を見ているのかわからない。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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2026/04/05 更新 愛国心の出ずる処

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