歳を取り、光陰矢の如しを思い知る

  2017/08/22

現在、 日本の標準労働時間は週40時間となっている。ゆえに、一日8時間である。

と言っても、世の企業様にお勤めの皆様方におかれましては、それ以上に働かれている方も多かろう。

さて、ぼくは大学生のころ、ミドリ薬品という九州を中心に展開するドラッグストアで働いていた。留年して(大学一年のときにある女の子とぐだぐだな恋愛に陥り休み過ぎたのが主因)、それで大学5年目で、上京するためのお金を貯めていた。

基本は夕方6時〜0時までの6時間で、週5日、時給は確か700円だったろうか。レジ打ちと品出しが主業務で、坊主頭であった。

まあ、そんなことはどうでもいいのだが、その頃の6時間ときたら、なんて長いんだと毎日思っていた。なんで人間はこんなにも長時間働かねばならないのか、とも。

早く時間が過ぎないかと、終始、時計ばかりちらちら見ていた。しかし時間というのは不思議なもので、時間を意識すればするほど、遅遅として進まないのであった。

翻って現在、毎日一応は8時間ほど働いているが、その時間は日々短くなっている。

もうお昼か、もう3時か、もう夕方か、もう帰る時間か。

あの長くかったるかったバイトのころに、こんな時間感覚がすこしでもあったならと思わずにはいられない。

歳を取ると時間の流れが速くなるというのはよく聞く話で、その原因は諸説ある。時間は常に一定だが、肉体が衰え、つまり細胞の新陳代謝が衰え、遅くなる。だから、相対的に、時間の流れが速く感じられる、とか、なんとか。

まあ、原因なんかどうでもいい、実際に時間の流れが恐ろしく加速していると"感じられる"ことが問題なのだ。

朝めざめて、夜になって、あれ、いったい今日、自分はなにをしたんだろう。

痴呆老人のごとく、あれ、今日は何を食べたんだろうというような感じで、何もかもが、いまこの瞬間、それが次の瞬間に移る、そして過去になる端から、なにがなんだかわからぬもやの中に消えてゆく。

どう考えても、人生というのは瞬間の連続の積み重ねでしかない。

このまま行くと、死の床で、おれはいったいなにをやってきたんだっけなと思いながら、何も思い出せず、もやり、もやりと消えていきそうである。

その一方で、自分は、自分だけは、永遠に生きて死なないような気がしてしまうから質が悪い。

絶対に死ぬんだといくら考えてみても、結局は死を理解できず、受け入れられない。有意義に生きればとか、満足できる死に方だとか言ってみても、それは人の一生の本質、その根幹を揺るがすというようなことはなく、何をやってみたところで、 なんとはなしに日々は過ぎて去ってゆく。

あんな日々、こんな日々、いろんな日々、しかしどうしようもなく似たような日々。

とりあえず、歳を取った。って、数日前にも同じようなことを書いた気がする。やっぱり、歳を取った。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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