新戦争論 (小室 直樹/光文社)
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子供のころ、姉弟喧嘩をすると、父がよく言っていた。ケンカは戦争の始まりだと。
あれから三十年。今日の今日までその教えを無邪気に信奉していたが、本書を読めば、その考えを改めざるを得ない。
戦争をするのは人間だけ
戦争は言うまでもなく暴力をともなうものだが、しかし、その暴力ばかりにフォーカスすると、戦争の本質を見誤る。
戦争を行なうのは、人間だけである。〜中略〜本能のままに、むき出しの暴力をふるい、相手方をいたずらに痛めつけるのは、「けんか」であっても戦争ではない。〜中略〜戦争は国際紛争解決の手段なのだから、敵を殺すこと自体に意味はなく、紛争解決のために相手の意思を矯正できればよい。そのために敵兵を殺すことがあっても、それ自体が目的ではない。
一般に、戦争=殺人だと思われている。実際そうだとは思うが、殺人は戦争の一側面に過ぎず、本質、目的は別にある。
これはあまりにも重要な指摘ではないだろうか。私は広島に生まれ育ったこともあり、平和教育の類に触れる機会は多かった。そのせいか、戦争における殺人が人類史上最も露骨な形で現れた原爆(殺人)を戦争そのものと考えていたふしがある。
バカに戦争はできない
戦争にはしばしば「愚かな」とか「過ち」とかいう形容詞がつけられる。しかし、人間が本当にどうしようもないバカだとすれば、そもそも大規模な組織立った戦争などできるはずがないのである。
戦争は高度な文明の所産である――それゆえ“野蛮な戦争はもうごめんだ”という主張は、自己矛盾をはらんでいる。戦争は野蛮な行為ではないからである。
私を含め、日本の平和ボケの平和論者に欠けているのはこの認識であろう。つまり、戦争を台風や地震といった自然発生的な災厄のように、どうか起こりませんようにと祈って何とかなると思っているのが我々なのだ。
戦争を極めて文明的な行為であると捉えてはじめて、人為的に戦争を避けたり無くしたりというコントロールが可能になるのではないだろうか。
戦争とは人類のひとつの発明である
『彼を知り己を知れば百戦殆からず』という。それは戦争を考える上でも同じはずである。しかし誰もかれも、戦争、ダメ、ゼッタイで思考停止してはいないだろうか。
自然は「そこにある」ものである。文明は、「そこで作る」ものである。文明は人間の仕業である。だからもちろん、人為的、人工的なものである。〜中略〜戦争も制度であり、文明の所産である。人類が長い歴史を通じて整備してきた文明の果実である。
このとらえ方は、私にとって完全に新しい。本書は昭和56年、ほとんど私が生まれた歳と同じ時分に出版されたものだが、今でもまったく古びず、むしろ斬新である。
私はこれを京急蒲田駅前の商店街にある古本屋でたまたま見つけたのだが、数奇な巡り合わせに感謝したい。
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