「カルト」はすぐ隣に  オウムに引き寄せられた若者たち (江川 紹子/岩波書店)

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本書を読んで、そしてオウム真理教のドキュメンタリー「A」も見てみると、自然、信者のほうにこそ肩入れしている自分がいる。

現実の矛盾をごまかせない、ある種の不器用さが、オウムというか、カルトへ傾倒するエネルギーになるのだろう。

「納得できないことを納得したようなフリをして生きる」苦しさを、確かにオウムは受け止めていた。ぼんやりと、他に代替となる何かがあるはずだとは思うが、適当な答えが見つからないというのは、つまり、そういうことなのかもしれない。

坂本が所属する法律事務所に行って抗議しました。しかし、それで坂本弁護士の教団に対する姿勢が揺らぐはずもなく、別れ際、「信教の自由」を主張する教団側に対し、「人を不幸にする自由はない」と言い渡したのでした。

セミナーに参加している人の大部分は、セミナー中に何らかの「神秘体験」をしたい、あるいは自分の身体に起こった変化を「神秘体験」と言ってもらいたい、という願望を胸に抱えています。このような人たちは、あまり意味のない体験をしたとしても、「それはアストラルの体験ですね」とか「クンダリニーの上昇ですね」など、自分が求めている答えが得られるまで質問し続けるのです。こうして、意味のない体験が、いつの間にか意味のある「神秘体験」として認識され、自分は貴重な「神秘体験」をしたと思い込む自己満足の世界に浸っていくことになるのでした。

広瀬は、高校三年生の頃から、「自分の生きる意味はなんだろう」と考え始めました。彼は、オーディオ機器に関心があったのですが、家電販売店の店先で、少し前に発売されたばかりの製品が安売りされているのを見たのが、悩みのきっかけでした。もともと理科系が得意で物作りにも興味がありました。けれども、商品の価値があっという間に下落し、失われてしまうのに、とてつもない虚しさを感じたのです。科学者が、社会にとって「よかれ」と思って開発した技術が、軍事に使われたりするのにも違和感を覚え、そうした仕事が虚しく感じられました。

     

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