街道をゆく〈35〉オランダ紀行 (司馬 遼太郎 /朝日新聞社)

書籍街道をゆく〈35〉オランダ紀行(司馬 遼太郎 /朝日新聞社)」の表紙画像

購入価格: 家にあった(0円)

評価:

この記事は約2分58秒で読めます

父が大の司馬遼太郎ファンなので、私がオランダに行くということで、自身の蔵書から手渡された一冊。

単なる紀行文というにはあまりにも深い内容で、ドッグイヤーを山ほどつけてしまった。これをオランダで読むことのできた僥倖に感謝したい。

オランダの土地は、海面すれすれか、それ以下の土地が多い。それにしても、単に低いということなら他に言い方があるのに、nether(オランダ語はneder)という言いかたは、辞書で語感をさぐるかぎり、おとしめ方がひどいように思えろ。英語の辞書では、netherは、"地底にあると信じられている地獄"とか、"冥界"だという。が、オランダ人は平然としている。国名としての正称の中に"低い"をつかい、英語式にいうと、Kingdom of the Netherlandsというように、平然と胸を張っているのである。

唐突なことをいうようだが、ゴッホを考えることは、自分で自分を解放するということであるらしい。ただし、解放とか自由とかいうものは、おそろしくもある。人は、慣習のなかで生きているのである。絵の場合でいえば、絵とはこういうもので、こう描くのだ、という慣習(固定概念)にくるまれてさえいれば、気楽このうえない。自由こそないが、奴隷の気楽さがある。技術の巧拙だけを気にしていればいいのである。

人類は、ながいあいだ、「事実」よりも空想(観念)のほうをたのしんできた。マルは〇であり、サンカクは△であるというあたりまえの事実よりも、「マルとはじつは△のことである」といわれるほうが、つまり観念や論理でいわれるほうが、あるいはそんな言いまわし(レトリック)で言われるほうが、はるかに刺激的だった。「ありがたいことじゃないか。阿弥陀さまはどんな悪人でも救ってくださるのだ。行きたくない、といっても、みなお浄土に連れて行ってくださる」単なる"死"という事実を、そのようにいわれるほうがよかった。

ジェネヴァというのは、このオランダ特有の蒸留酒である。ライムギがもとだが、ネズの木(杜松(トショウ))の実が香料として入っていて、それが個性になっている。平凡社の『大百科事典』の「ジン」の項をひくと、黄金の十七世紀なかば、ライデン大学教授シルビウスという人が創製した酒だそうである。教授がジェネヴァと命名したのは、フランス語でネズの実(ベリー)のことをgenièvreというからである。 (中略) ほどなくこの酒は海をわたってイギリスへゆき、ロンドン商人がまねて売りだした。ロンドンでは、ジェネヴァを略して、ジンとよんだ。ジンは、当初ロンドンでは貧民用の酒としてひろまった。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

敗軍の名将 インパール・沖縄・特攻

2022/12/16   政治・社会, 読書記録

しばしば耳にする言説、太平洋戦争と東京オリンピックは重なるというのももっともだと ...

第三次世界大戦はもう始まっている

2022/11/12   政治・社会, 読書記録

ロシアによるウクライナ侵攻から9ヶ月。しかし、日本を含む西側諸国は、ロシアは悪で ...

聴いて、話すための オランダ語基本単語2000

ビール(bier), シロップ(siroop), マドロス(matroos ...

FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド

知人に勧められたある動画の中で紹介されていたので、動画は最後まで見ずに購入。 今 ...

日本人が誤解している東南アジア近現代史

2023/02/21   歴史・地理, 読書記録

ページをめくるごとにうなってしまう。 日本人が心の底ではアジアを見下していること ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.