物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国 (黒川祐次/中央公論新社)

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今年2022年2月にあったロシアのウクライナ侵攻を契機に手をとった。

一時は熱狂的な支援の輪が広がったが、しかし半年を待たずにほとんど忘れ去られてしまっているかのような状況を見るにつけ、現代においては戦争さえもコンテンツとして消費されるものかと遠い目になる。
(個人的には、今年2月より1年間、毎月100EURの寄付活動を行なっているため、忘れたくても忘れられない。ロシアによるウクライナ侵攻に対する人道支援について)

チェルノブイリ原発が実はウクライナに位置していたり、京都市とキーウ(キエフ)市は姉妹都市で、京都通りという名の通りが存在するなど、知らないことばかりであった。

しばしば日本人は、外国人の日本に対する無知を嗤ったり嘆いたりするが、我々もまたほとんどの国のことを知らない。もっと、我々は完全にアメリカナイズされているくせに、そのアメリカのことさえよく知らないのである。

学んで初めてわかることがあり、思うところがあり、感じることがある。それはおそらく共感となり同情となり、あるいは愛のようなものにさえなろう。とにもかくにも学ばなければ始まらないと、あらためて思う。

キエフ・ルーシ公国の首都は、現在のウクライナの首都キエフにあった。ゴーゴリはコサックの末裔で生粋のウクライナ人であった。チャイコフスキーも、その祖父はウクライナのコサックの出であり、チャイコフスキー自身も毎年ウクライナのカーミアンカにある妹の別荘に滞在し、その地の民謡をもとに『アンダンテ・カンタービレ』その他の名曲を作曲した。ドストエフスキーさえもその先祖はウクライナに出ているといわれている。人工衛星スプートニク打ち上げに中心的役割を果たしたコロリョフはウクライナ人であった。これだけでもわかるように、ウクライナには歴史も文化も科学技術もあるが、それはすべてロシア・ソ連の歴史、文化、科学技術として括られてしまい、その名誉はすべてロシア・ソ連に帰属してしまっていたのである。

キエフ・ルーシの貨幣は銀の鋳塊であり、その単位は「フリヴニャ」(ロシア語グリヴナ)と呼ばれた。ちなみに、ウクライナは、独立して五年たった一九九六年に本格的な通貨を導入したが、その単位の名はこの歴史的なフリヴニャであった。なお現在のロシアの通貨単位「ルーブル」は、「切り取られた」という意味で、フリヴニャを切り分けた銀塊の単位として一三世紀に現れたものである。ウクライナ人は冗談半分に、ルーブルはフリヴニャから派生し、フリヴニャより小さいとからかっている。

コサックという言葉は、トルコ語で「分捕り品で暮らす人」あるいは「自由の民」を意味し、以前からポロヴェツ人の間で使われていた。

モスクワ国は「ルーシ」のラテン化した名「ロシア」を使うようになった。

ロシア帝国下では、「ウクライナ」は正式名ではなく、「小ロシア」(マロロシア)が行政上の名前であった。ウクライナ人は「小ロシア人」と呼ばれた。

ウクライナ人は日本に対して好意と高い関心をもっている。私はウクライナ在勤時代、ウクライナの人たちに、ウクライナと日本はまったく共通点がないと思っているかもしれないが、そんなことはない、お互いに古い歴史と文化をもち、それを大切に守ってきたこと、とくにコサックと侍は勇気、名誉、潔さなどの共通の価値観をもっており、これが現代にも受け継がれていること、両国とも農業を基礎とした社会であったこと、両国とも石油・天然ガス資源に恵まれていないこと、しかし教育には熱心で教育水準が高いこと、両国が世界で核の悲劇の直接の被害者であったこと、お互いに共通の隣人があり、問題を抱えていること、などがあるといっていたものだ。

     

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