13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (佐藤 大介/KADOKAWA)
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日本人にはトイレがない生活など考えられない。とはいえ、世界にはいまだトイレがない生活をしている人々がいるということは理解できる。しかし、それを経済的な問題以上のことだとは考えない。
スマホがあってもトイレはない
滑稽だろうが、それが現実である。インドでは13億の人口のうち半数以上がトイレのない生活を送っているという。その一方、移動電話サービス、つまり携帯電話の人口普及率は9割近くにものぼる。いっそ、ヴィトンのバッグを全裸でぶら下げて闊歩しているようなものであろう。
ヒンズー教では、排せつ物が集まるトイレは汚いもので、カネを出して自分の家に置こうと考える人は少ないとされてきました。そのため、トイレがあっても使わない人が今でもいます。
文化とは、内側にいる人間からすれば空気のように当然至極のものであるが、外側から見れば往々にして滑稽極まりないものである。
ヒンズー教の経典では、人間が住むところの近くでは用を足してはいけないことが示されています。矢を放って落ちた場所に行き、そこに小さな穴を掘って用を足し、終われば土や草で覆っていたのです
そう、トイレを作る金さえあれば済む話しではないのだ。
光が強ければ影もまた濃い
文豪ゲーテの名言だが、まさに現代インドがそうであろう。いま、インドは世界で最も有望な投資先と言われている。そのため、世界中から投機マネーが流れ込んでいるが、その恩恵を受けている人々はごく一部に限られる。
インドの一人当たりGDPは、2018年度が14万2719ルピー(22万8350円)だ。これを各州と連邦直轄地別に見ると、最も高い南部のゴアが50万2425ルピー(80万3880円)、そしてニューデリーが40万2172ルピー(64万3475円)と続く。一方、最も少ないビハール州は4万7541ルピー(7万6065円)、下から2番目のウッタルプラデシュ州は6万8792ルピー(11万67円)だった。ゴアとビハール州を比較すると、実に11倍の差があることになる。
格差は社会を不安定化させる。沖縄と東京で県民所得を比較した際の格差が3倍にも満たない日本でさえこれなのだから、その危うさは容易に想像がつくだろう。
金では変わらない意識
日本人はとかく金で済まそうとする傾向が強い。あるいは送金が国際貢献だと思っている。しかし、金で済まないことはこの世にごまんとある。
下水道などの清掃に関わる労働者の多くは、カースト制度の最下層で不可触民とされた「ダリット」と呼ばれる人たち (中略) 清掃労働に関わる人たちの95%が、ダリット (中略) トイレには汚物をためるタンクや排水溝につながるパイプなどがなく、まして流すための水も用意されていない。排せつ物はトイレの下にそのまま放置されており、女性は素手やほうきを使ってそれらをかき集め、かごに移していく。かごには灰が入っており、排せつ物にかけて回収しやすくしていいるが、黙々と作業する女性は手袋やマスクをしていない。 (中略) 女性がもらえる賃金は1軒につき月で50ルピー(80円)にも満たない
日本で言えば部落問題に当たるだろうが、この種の問題は人々の意識改革抜きに解決することはあり得ない。しかし、人々の意識ほど変えることが難しいものはない。そうであればこそ、これは十年百年かかる大問題であって、外部が介入して金をやり教育を施したところで簡単に解決できるものではない。
ほとんどの文明人は、カーストなんてものは無知蒙昧な愚かな制度だと笑うだろう。そのくせ、ふだん自らが平気で振りまいている差別には呆れるほど無自覚だったりする。
たとえばジェンダーにまつわる諸問題には、この手の無自覚だからこそ破廉恥な暴力がひしめき合っている。だからこそ極めて解決が難しい問題なのだ。
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