13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (佐藤 大介/KADOKAWA)

購入価格:990円
評価:
この記事は約3分47秒で読めます
日本人にはトイレがない生活など考えられない。とはいえ、世界にはいまだトイレがない生活をしている人々がいるということは理解できる。しかし、それを経済的な問題以上のことだとは考えない。
スマホがあってもトイレはない
滑稽だろうが、それが現実である。インドでは13億の人口のうち半数以上がトイレのない生活を送っているという。その一方、移動電話サービス、つまり携帯電話の人口普及率は9割近くにものぼる。いっそ、ヴィトンのバッグを全裸でぶら下げて闊歩しているようなものであろう。
ヒンズー教では、排せつ物が集まるトイレは汚いもので、カネを出して自分の家に置こうと考える人は少ないとされてきました。そのため、トイレがあっても使わない人が今でもいます。
文化とは、内側にいる人間からすれば空気のように当然至極のものであるが、外側から見れば往々にして滑稽極まりないものである。
ヒンズー教の経典では、人間が住むところの近くでは用を足してはいけないことが示されています。矢を放って落ちた場所に行き、そこに小さな穴を掘って用を足し、終われば土や草で覆っていたのです
そう、トイレを作る金さえあれば済む話しではないのだ。
光が強ければ影もまた濃い
文豪ゲーテの名言だが、まさに現代インドがそうであろう。いま、インドは世界で最も有望な投資先と言われている。そのため、世界中から投機マネーが流れ込んでいるが、その恩恵を受けている人々はごく一部に限られる。
インドの一人当たりGDPは、2018年度が14万2719ルピー(22万8350円)だ。これを各州と連邦直轄地別に見ると、最も高い南部のゴアが50万2425ルピー(80万3880円)、そしてニューデリーが40万2172ルピー(64万3475円)と続く。一方、最も少ないビハール州は4万7541ルピー(7万6065円)、下から2番目のウッタルプラデシュ州は6万8792ルピー(11万67円)だった。ゴアとビハール州を比較すると、実に11倍の差があることになる。
格差は社会を不安定化させる。沖縄と東京で県民所得を比較した際の格差が3倍にも満たない日本でさえこれなのだから、その危うさは容易に想像がつくだろう。
金では変わらない意識
日本人はとかく金で済まそうとする傾向が強い。あるいは送金が国際貢献だと思っている。しかし、金で済まないことはこの世にごまんとある。
下水道などの清掃に関わる労働者の多くは、カースト制度の最下層で不可触民とされた「ダリット」と呼ばれる人たち (中略) 清掃労働に関わる人たちの95%が、ダリット (中略) トイレには汚物をためるタンクや排水溝につながるパイプなどがなく、まして流すための水も用意されていない。排せつ物はトイレの下にそのまま放置されており、女性は素手やほうきを使ってそれらをかき集め、かごに移していく。かごには灰が入っており、排せつ物にかけて回収しやすくしていいるが、黙々と作業する女性は手袋やマスクをしていない。 (中略) 女性がもらえる賃金は1軒につき月で50ルピー(80円)にも満たない
日本で言えば部落問題に当たるだろうが、この種の問題は人々の意識改革抜きに解決することはあり得ない。しかし、人々の意識ほど変えることが難しいものはない。そうであればこそ、これは十年百年かかる大問題であって、外部が介入して金をやり教育を施したところで簡単に解決できるものではない。
ほとんどの文明人は、カーストなんてものは無知蒙昧な愚かな制度だと笑うだろう。そのくせ、ふだん自らが平気で振りまいている差別には呆れるほど無自覚だったりする。
たとえばジェンダーにまつわる諸問題には、この手の無自覚だからこそ破廉恥な暴力がひしめき合っている。だからこそ極めて解決が難しい問題なのだ。
- 前の記事
- 英語と日本軍 知られざる外国語教育史
- 次の記事
- われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る
出版社・編集者の皆様へ──商業出版のパートナーを探しています
*本ブログの連載記事「アメリカでホームレスとアートかハンバーガー」は、商業出版を前提に書き下ろしたものです。現在、出版してくださる出版社様を募集しております。ご興味をお持ちの方は、info@tomonishintaku.com までお気軽にご連絡ください。ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づくノンフィクション的なエッセイを執筆。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。英語の純粋な日記。呆れるほど普通なので、新宅に興味がない人は読む必要なし。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。日々の出来事や、思ったこと感じたことを台本・編集なしで吐露。毎日更新。
関連記事
野獣系でいこう!!
2013/03/09 book-review migrated-from-shintaku.co
5年後にはオランダで永住権を得るために必要な市民化プログラムの試験を受けるつもり ...
英文法のトリセツ—英語負け組を救う丁寧な取扱説明書 じっくり基礎編
2016/08/29 book-review book, english, migrated-from-shintaku.co
確かにすばらしくわかりやすかった。いままで何ひとつ英語のことを知らなかったなあと ...
ヤンキー化する日本
2014/10/08 book-review migrated-from-shintaku.co
最近は読書があまり進んでおらん。いろいろとだるく、電車の中では寝ている。それはと ...
頭脳―才能をひきだす処方箋
2015/10/20 book-review book, migrated-from-shintaku.co
昭和33年、米を食べると馬鹿になる。麦を食べなさいという「米食低能論」を唱えた迷 ...
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること
2017/08/08 book-review book, migrated-from-shintaku.co
基本、私は社会問題には無関心なのだが、それでも大きな衝撃を受けた。この問題どう解 ...