消された一家 北九州・連続監禁殺人事件 (豊田正義/新潮社)
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文字通り一気に読んだ。
鬼、悪魔、畜生、非道、鬼畜。人間の残虐を表す言葉は多々あるが、この松永という犯人は、それらの一切を超越している。
逮捕後も一切反省も悪びれる様子もなく、延々と作り話に終始し死刑を免れようと抗弁を振るう。裁判のほとんどを傍聴したという著者も「松永という男は、血の通っていない怪物に違いないと、本気で思いたくなる衝動に駆られる」と言っている。
読み終わって、著者の言葉に深く共感せざるを得ない。
我々は、ふつう、ひとは話せばわかると思っている。やさしく接すればやさしさが返ってくるし、誠実に振る舞えば好ましい結果がついてくる。逆もまたしかりである。
しかし、この事件に関しては、そういった一般的な道徳や倫理が一切通用しない。人間の中には、人間では無い人が居るのだと、そういう無力感に深く沈む。
話は変わるが、この事件に報道規制がかけられたというのは、マスコミの情報操作などというものではまったくないと思う。このような話を、まともに聞いて、冷静に判断し意見を述べられる人のほうが少ないと思う。
本文にもこうある。
「あまりにも残酷な内容なので表現方法が極めて困難であること。たとえばこの事件を精力的に取材して新聞連載した記者は「朝から気持ち悪くなる記事を読ませるな!」という読者のクレームを受けたという。第二の理由は遺族がアクションを起こさないこと。オウム事件、池田小児童殺傷事件、光市母子殺害事件など全国的に知られる有名事件は、被害者の家族がマスコミに登場して加害者への憎悪や判決の不当性を訴えることがニュースとなる。翻って北九州・連続監禁殺人事件は、家族同士が殺しあったという理由により遺族が少なく、親類縁者も沈黙しているため、報道の対象とはならないという」
性分として悲惨な話をゴシップ趣味で楽しめるぼくでさえ、この本を読んでいると心拍数が上がり、ほんとうに吐き気や頭痛を覚えざるを得なかった。頭の後ろに鉛をかかえているような感じがする。やりきれない気持ちになる。
このような事件が二度と起こらないためにはどうすればいいのか。社会はどうあるべきか。
少なくともぼくは、このような人間が二度と現れないことをひたすらに願うくらいしか、思いつかない。
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