雪国 (川端 康成/角川書店)
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評価:
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『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』という書き出しがあまりにも有名な、日本人初のノーベル文学賞受賞作家である川端康成の代表作である。
権威に弱い私のことであるので、無条件にひれ伏すことになるかと思いきや、こんな馬鹿馬鹿しい内容だったのかと思ってしまったのが正直なところである。
ひとり歩きした書き出し
書き出しがあまりにも有名なために、もうそれだけで満足してしまい、逆に読む機会を逸したという人は少なくないのではなかろうか。ゴッホのひまわりのような。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
私の場合は、先日Twitterで、書き出しに続く表現の方がよほど秀逸だというのを見かけたのが、本書を手にとったきっかけである。なるほど、『夜の底が白くなった。』とは気の利いた表現である。
ちなみに国境の長いトンネルとは群馬県と新潟県の県境にある清水トンネルで、舞台は新潟県の湯沢温泉である。
先々週から群馬の草津温泉に逗留している私としては、まさに雪国において本書を読むことになり、オツで風流という他ない。
年に一度、温泉街で芸者と遊ぶ
主人公の島村は親譲りの資産のある東京に住む男で、妻子がある。それが年に一度、地方の新潟くんだりにでかけて、芸者の駒子と乳繰り合うというのが、本書の要約というか、すべてである。
「煙草を止めて、太ったわ」腹の脂肪が厚くなっていた。離れていてはとらえ難いものも、こうしてみるとたちまちその親しみが還って来る。駒子はそっと掌を胸へやって、 「片方が大きくなったの」 「馬鹿。その人の癖だね、一方ばかり」「あら。いやだわ。噓、いやな人」と、駒子は急に変った。これであったと島村は思い出した。 「両方平均にって、今度からそう言え」 「平均に? 平均にって言うの?」と、駒子は柔かに顔を寄せた。
本当に馬鹿じゃないかと思う。本作が書かれた1935年~1937年という昭和初期の感覚であれば、妻子ある男性が外に女を囲うことはそれほど珍しくなかったのかもしれない。
しかし現代から見れば、それこそ頭がおかしいのではないかといぶかるのがマトモな感覚ではなかろうか。そしてこの小説の評価は「芸者の駒子の非恋が詩的に美しく綴られている」とかいうことになっている。
もちろん、現代でもその手の不貞は枚挙にいとまがない。しかし、読めば読むほど、単に東京の妻子ある男が、年に一度、金にものを言わせて地方の貧しい芸者をたぶからしに行っているという風にしか見えない。
いわばフェミニストが必ず糾弾するだろう搾取的な構図なのである。その違和感が強烈過ぎて、とても悲恋などという美談としては読めなかった。
憂鬱でエゴイスティックな女好きポエマー
主人公の島村を簡単に言えば、そのようなところである。これをどう思うか、現代女性の意見を聞いてみたいところである。
「分らないわ、東京の人は複雑で。あたりが騒々しいから、気が散るのね」 「なにもかも散っちゃってるよ」「今に命まで散らすわよ。墓を見に行きましょうか」 「そうだね」
さすがに日本が世界に誇る文豪だけあって、興味深い表現は散見される。
島村はやはりなぜか死は感じなかったが、葉子の内生命が変形する、その移り目のようなものを感じた。
ここなど、フローベールの「ボヴァリー夫人」のラストを彷彿とさせる美しい表現だとは思う。しかし、小太りの島村(主人公)のおっさんはいい年こいて何やってんだという気持ちが強すぎて、感動とはほど遠い読後感であった。
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