人間について (ボーヴォワール (著), 青柳 瑞穂 (翻訳)/新潮社;)

書籍人間について(ボーヴォワール (著), 青柳 瑞穂 (翻訳)/新潮社;)」の表紙画像

購入価格: 不明

評価:

この記事は約3分23秒で読めます

著者の舩坂氏は、1944年の第二次世界大戦下、死闘の繰り広げられたパラオ諸島の南にあるアンガウル島から、奇跡では足りないほどの奇跡的生還を果たした人である。

人の生き死には運でなく

彼は腕を打たれ足を打たれ腹を打たれ、さらにはその傷口からウジがわいてもなお生きて、這いつくばってでも敵である米兵を一人でも倒すべく画策し続けた。そこで彼をして生き延びさせたのは生きようとする気力の強さだったという。

ひとつ気になったのは、この倒すという表現。殺すという表現も出てくるが、やはり戦場で戦う人の感覚としては、倒すなのだろうと思う。

舩坂弘氏は私の剣道の先輩である。

なんと、本書の序文はかの三島由紀夫が書いている。それでミーハーな私はつい、終戦記念日云々ではなく、ネームバリューに負けて読み始めてしまったというのが本当のところである。

純粋性を疑う

若くして散っていった日本兵たちの死にざまは、世間で言われているような犬死ではなかったのだと、著者は繰り返し強調する。

「行くぞ。男子の本懐、面目を果たすときだ。靖国神社で会おう!」 と一言、 「突撃! 進め!」 との号令のもとに、全員が群がる敵兵に白刃をかざして一団となってとび込んだ。

純粋に祖国を思う愛国心、親兄弟の住む日本を鬼畜米英から死守せんとする気概、そのような思いでもって戦ったのだ、と。

この純粋という言葉も何度か登場する。我々はふつう、純粋という言葉を好ましい形容として用いる。しかし、純粋は狂信に似てはいないか。もっと、見分けがつかないものなのではないかと、私は考える。

先達を愚弄する気はさらさらない。ただ、彼らに対して純粋という言葉を連発することについては、妙に引っかかるものがある。

物質狂時代

負けるのは明らかだったというのは、現代の歴史的解釈では常識である。しかし、それは競馬のレースなんかの後になって訳知り顔でこうなると思っていたとうそぶくようなもので、やはりその時は誰にもわからなかったのである。

「ダメだ。これじゃダメだ。日本は米軍より五十年は遅れている」 と幾度も呟いていた。一方では洞窟の中で一滴の水もないのに、米軍テントの外では海水から濾過した水でジャブジャブと洗濯をしているではないか。私はつくづく先進国の科学の発達に驚き、物量戦の敗北を感じていた。

そして戦後、米国に憧れ、モノを追い求めて働きまくり、何もかもすっかり欧米並になって、いま、現代。しかし、よくやったと手放しで喜ぶ人は少ない。表面だけはコピーできたが、その実、哲学がないからだろう。

米国には、モノを作りまくり使いまくり捨てまくるという、良し悪しは別として、揺るぎない哲学がある

ロックスターの外見をいくら真似てみても虚しく、勝てる日は永遠に来ないのと同じだろう。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち

幼少期から、私には夢がある。絵でも文章でもその他なんでもいいから、とにかくは歴史 ...

聖書 新共同訳 新約聖書

人生2度目の新約聖書読了。十年前に比べると、まあ理解度は上がった。が、信仰心はと ...

僕の父は母を殺した

私の地元、広島の宇品港で起こった事件ということで、興味深く読んだ。内容はタイトル ...

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

ほんとうにしょうもない本だった。読書会の課題本としては珍しいくだらない本。本当に ...

「知の衰退」からいかに脱出するか?

実に刺激的な本だった。わかりやすく自分の人生にハッパをかけられた感じ。おっしゃる ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.