恐山 死者のいる場所 (南直哉/新潮社)
購入価格:403円
評価:
この記事は約2分29秒で読めます
これからの時代の福祉や移民のあり方を探るのに、オランダほど参考になる国はないと考えさせられる一冊。
特に移民政策については、オランダに限らず、フランスやドイツでも移民に対し自国語や自国の文化を学ぶことを義務化する流れにあるのは興味深い。
これは実質的に後進国からの移民を排除する仕組みとして機能し、新たな排除の形をとっているという問題はある。しかし今後移民の増加は避けられない日本でも、このような政策は、日常生活レベルにおいて外国人との無用なトラブルを避けるうえで有効ではないだろうか。
米国在住のオランダ人コラムニストのH・メースは2007年に出版した著書『パートタイムフェミニズムよさらば!』のなかで、「男性 = フルタイム勤務、女性 = パートタイム勤務」というあり方を、伝統的な男女の役割分担が姿を変えて現れたものに過ぎないと論じ、話題を呼んだ。オランダの女性たちは「自らの選択」としてパートタイムを選んでいるとはいえ、女性が経済的に男性に従属している点は同じであり、実際には男女間の不平等をむしろ固定化している。
同様にジャーナリストのドライエルは、『甘やかされたお姫様たち』で、女性の経済的な自立を重視する立場から、専業主婦の道を選択したり、パートタイム労働を選んで子育てとの「両立」を図る オランダの女性を批判する(Drayer, 2010)。彼女は特に、オランダにおいて「母親」の役割が今もなお神聖化され、母親たちが人生のほかの可能性を捨て、子育てにすべてをささげていることに問題があるという。彼女は労働を一種の「社会的義務」であるととらえ、高学歴であるにもかかわらず、専業主婦を選択した女性に対しては、公費で賄われた学費を返還すべきと主張する(Drayer, 2010, 61)。そのような義務も責任も自覚しないまま、子育てや趣味に時間を費やす女性たちは、「甘やかされたお姫様たち」にほかならないという。
「言語によるコミュニケーション」がポスト近代社会における中核的な「能力」として浮上したことを踏まえれば、先進各国における近年の移民排除の基準に「言語・文化」が据えられたことの意味が理解できるだろう。ここ10年ほどの西欧諸国の顕著な傾向として、移民に対するシティズンシップ付与の条件に当該国の言語・社会慣習・価値観などの習得が求められるようになったことが挙げられる。 (中略) かつての人種差別・外国人排斥は、人種や血統・皮膚の色といった出身・先天的な形質を主たる選別の基準としていた。しかし近年の選別基準は、むしろ言語や文化を習得し、当該社会で「参加」できるのか否かといった「個々人のあり方」に対する評価にシフトしている。移民は言語や習慣といった当該国の「文化」を学び、身につけることで、その社会に「参加」する資格を得て、シティズンシップを認められる。ここでは「文化」は、当該社会に参加するための一種の(後天的に習得可能な)能力という性質を帯びているのである。
インターネットの発達などにより英語化が一層進展しつつあるようにみえる現代において、各国において自国(自集団)の言語の役割が再浮上し、外国人や移民・外部集団に対してはむしろ障壁を高めているという逆説的な状況が生じている問題については、あまりその重要性が認識されていないのではないか。
- 前の記事
- 中学・高校で習った英語の基本を5時間でやり直す本
- 次の記事
- 不幸論
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
関連記事
まんがと図解でわかるドラッカー マネジメント、イノベーションなどが初心者でも簡単に理解できる! (別冊宝島) (別冊宝島 1710 スタディー)
2014/04/21 book-review book, migrated-from-shintaku.co
会社で借りてきた本。これのニーチェ版を読んだことがあるが、やはりマンガが差し込ま ...
神と祭りと日本人
2012/07/03 book-review migrated-from-shintaku.co
まあ、まあ。 恋は相手の魂を「乞う」ことだそうです。 祭り、ね。今では祭りと聞け ...
世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由
2020/05/11 book-review book, migrated-from-shintaku.co
誰もが知る有名企業25社の倒産劇について書かれた興味深い本。仏教を引き合いには出 ...
世界一孤独な日本のオジサン
2018/03/10 book-review book, migrated-from-shintaku.co
一日で読了。良い。というか、うちの父に有益と思われるので送っておいた。
Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life (English Edition)
2021/09/17 book-review book, migrated-from-shintaku.co
日本人にとって当たり前の考えも、あらためて外国の人の眼を通すと、なるほどなと、浮 ...