現代パチンコ文化考 (谷岡 一郎/筑摩書房)
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パチンコは公然とした法の抜け穴どころか、官民一体になった犯罪である、というのが本書の主旨である。
本書を読めば(あるいは読まなくても)、それはまったく同意せざるを得ない事実なのであるが、パチンコ店というものがあまりにも日常に浸透し過ぎているせいか、改めてその暗部に対して糾弾しようとする者がいない。
それは一重に、正義云々よりも、それが是正されたとて「誰も得をしない」からであろう。
現在のパチンコは完全なギャンブルである。パチンコをプレイする者の95パーセント以上は実際に換金しているのである。誰もパチンコ玉で美しいボールペンや文鎮がもらえて、外に行ったら偶然その景品を買い取ってくれる店があった、などと信じてはいまい。あまり法を馬鹿にするものではない。卸問屋を通して三店にしたから合法、などという論理がまかり通る世の中は不健全である。筆者は一応刑法学会にも所属する者であるが、今のパチンコはまず常習賭博罪(刑法一八六条)に相当すると考える。
根底にはまだギャンブルおよびその儀式的なプロセスを楽しむ、という思想がないせいであろう。現代の欧米社会においては、カジノなどのギャンブルは娯楽を享受することであって、(必然的に)負ける金額は、映画やステージショウに払う対価のように、「楽しみ代」として支払うお金である、という考え方が主流となりつつある。ところが日本人はいまだ「一発当てる」とか「金を儲ける」ためにギャンブルをする人がほとんどで、そのもとになっているのは、「やりようによってはオレは勝てるはずだ。勝たねばならぬ。勝ってみせる」などといった根拠のない確信にすぎない。
大阪大学の古川岳志がおもしろい観点を紹介している。スポーツが真にフェアなゲームになるための一番の近道は、公営「ギャンブル」の対象にすることである、という意見である(古川岳志「公営ギャンブル競輪の『スポーツ』化」1997年)。古川は競輪というスポーツを例にとって、公営ギャンブル化したことによって厳格な公正さと公平さとが要求され、抜け道が存在しないように改善されてきたことを紹介している。考えてみれば、ラスヴェガスにおいてのルーレットやスロットマシンの不正を心配する人は、(よく知っている人ならば)いないと思うが、同じ安心感を日本のカジノバーやパチスロ店に持つことはできない。それは前者が厳格な法の監視と罰則の施行を受けていることを知っているからであり、後者は金を賭ける「ギャンブル」とさえみなされていないことを知っているからである。アメリカではプロ野球はおろか、カレッジやハイスクールのスポーツ(フットボールバスケットボールなどなど)に対する賭けもなされている。それがゆえにプレイヤーやコーチたちに対するモラルは厳格で、ほんの少しの情報を漏らしたり、会ってはならない人と話をしただけで、追放された選手や、対外試合が禁止された大学などは、枚挙にいとまがない。
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