脚のない飛行機 (児玉辰春/青磁社)

書籍脚のない飛行機(児玉辰春/青磁社)」の表紙画像

購入価格: 家にあった(0円)

評価:

この記事は約2分38秒で読めます

広島市内に位置する実家の、近所に住んでいた教員の方が書かれた本だそうで、母にすすめられて読んだ。

母曰く、著者は風変わりな方だったらしい。しかし、これだけの文章を情熱を持って書き上げられる方というのは、それはまあ、変わり者に違いないだろうと思う。

現在はAmazonはじめ、ネットの古書店でもまったく売っておらず廃盤のようだが、もしどこかで見かけた際はぜひ手にとってみてほしい一冊である。が、しかし、最後の最後が三文小説ばりの大団円で興ざめだったので星4つ。

戦争が長びくと、政府は国家総動員法をつくり戦争のためにあらゆる物資はすべて国へささげさせるように強要した。政府が必要とするものは民間から無条件でとりあげることができる、という法律である。家庭にある金具は使用しているものも出さされ、お寺の釣鐘もはずされて鉄砲の玉につくりかえられた。この法律はだんだんと拡大解釈されてついに辰夫の家のトラックも十台あるうち新しいのばかり三台がとりあげられた。1台2500円で買ったトラックが赤紙一枚とりあげられるのだ。

「この間秀子たち話しよったぜ、旋盤でけずりすぎて小さくなって、丸パスがストン、ストンと通ってしまったって言ってたぜ」「そりゃあそうよ、工業学校のわしらでもそんなに上手にいかんのに、あの大きな旋盤を女学生が使うんじゃ上手にできるはずがないよ」「そうよ、秀子や雪枝だけじゃない、どのメチ公(女学生のこと)も同じことよ」「それじゃここの工場の脚はみんなだめなんか」「なにかそうらしいぜ、工員の話じゃ、百本できても使えるのは二本か三本らしいぜ、それでそのオシャカ(不良品のこと)は八幡製鉄へ送ってまたつくりかえるらしい、ばかなことよ」

戦争が終り、天皇のために死ぬことを考えることは必要でなくなった。こんどはまったく逆に、生きること、自分のために生きることを考えねばならなかった。いままで抑圧されてはいたが、はりつめていた青春のエネルギーは、あたかもゴム風船につめられていた水がやぶれて地面にとび散った時のような、むなしさを感じていた。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

貧困の克服 ―アジア発展の鍵は何か

まず、声を大にして言いたい。本書は「ジュニア新書」となっているが、まったくもって ...

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く

本書のエッセンスは、『トランプは、多民族国家アメリカで、人々の潜在的な差別意識や ...

仕事の英語 いますぐ話すためのアクション123 (日本語) 単行本 – 2017/1/21 河野 木綿子 (著)

前半は心がけや習慣的なことに終始しており、そんなこたとっくに実践しとるわいと思わ ...

苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」

もともとは実の娘への個人的な手紙だったそうだが、まったく感動的で有益な助言が満載 ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.