魂をゆさぶる歌に出会う――アメリカ黒人文化のルーツへ (ウェルズ 恵子/岩波書店)

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奴隷としてアメリカくんだりまで連れ去られたBlackたちにとって、歌は単なる歌ではなかった。歌をうたって艱難辛苦を乗り切ろうとしたのだ。

そのことを知ると、彼らの歌を単に気の利いたBGMとして聞き流すことはできなくなる。単純作業、あるいは肉体労働、そこから生まれたすべてのリズムには深い理由がある。

黒人の文化は、日常性に深く根ざしていることが力の源だったからです。歌は仕事や遊びをとおして伝承されるものでしたし、物語は日々のつらさを笑いとハッピーエンドに変換するためのファンタジーでした。どちらも共同体での生活があって発展してきたものです。しかしマイケル・ジャクソンは幼いときからスターだったので、近所の友達と群れて遊ぶこともなく、普通に暮らしている黒人たちの生活感覚を育てることができませんでした。そのことが彼を不安にし、苦しめたように見えます。

サウス・カロライナ州法に、逃亡した奴隷の処置について次のようにあります。「逃亡奴隷は、適切と思われる手段と方法でこれを殺して死体を破壊してもよい。それによって[逃亡奴隷を殺した者が]罪に問われることはない」。「破壊する」とは、殺すときにむごく傷つけたり遺体に暴力を加えたりして破壊し、さらしものにすることをいいます。こうした行為が罪に問われなかったのは、南部社会が奴隷を人間と考えていなくて、ましてや逃亡奴隷の亡骸は目ざわり以外の何ものでもなかったという証拠でしょう。

ことばの意味の二重性は価値観の逆転から発生していて、それは奴隷制度時代にまで起源をさかのぼれるでしょう。考えてもみてください。早起きする、よく働く、正直だ、素直だというような「よい」性質を身につけて、奴隷は幸せになれるでしょうか。どんなに働いても利益は主人が得てしまい、彼らは死ぬまで働かされるだけなのです。正直で素直であればあるほど主人に利用されてしまいます。つまり主人側の価値観で「よい」ことは、奴隷側には「悪い」ことです。ひるがえって、仕事の手を抜いたりその場しのぎの言い逃れをするのは、奴隷にとっては知恵を使った行動、生きのびるための「よい」行動になります。このような複雑な社会背景が、“ bad”という単純なことばの、黒人特有の意味の二重性に隠されているのです。

     

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