現代アートの巨匠 (美術手帖編集部/美術出版社)

書籍現代アートの巨匠(美術手帖編集部/美術出版社)」の表紙画像

購入価格: 不明

評価:

この記事は約3分54秒で読めます

日本人にはトイレがない生活など考えられない。とはいえ、世界にはいまだトイレがない生活をしている人々がいるということは理解できる。しかし、それを経済的な問題以上のことだとは考えない

スマホがあってもトイレはない

滑稽だろうが、それが現実である。インドでは13億の人口のうち半数以上がトイレのない生活を送っているという。その一方、移動電話サービス、つまり携帯電話の人口普及率は9割近くにものぼる。いっそ、ヴィトンのバッグを全裸でぶら下げて闊歩しているようなものであろう。

ヒンズー教では、排せつ物が集まるトイレは汚いもので、カネを出して自分の家に置こうと考える人は少ないとされてきました。そのため、トイレがあっても使わない人が今でもいます。

文化とは、内側にいる人間からすれば空気のように当然至極のものであるが、外側から見れば往々にして滑稽極まりないものである。

ヒンズー教の経典では、人間が住むところの近くでは用を足してはいけないことが示されています。矢を放って落ちた場所に行き、そこに小さな穴を掘って用を足し、終われば土や草で覆っていたのです

そう、トイレを作る金さえあれば済む話しではないのだ。

光が強ければ影もまた濃い

文豪ゲーテの名言だが、まさに現代インドがそうであろう。いま、インドは世界で最も有望な投資先と言われている。そのため、世界中から投機マネーが流れ込んでいるが、その恩恵を受けている人々はごく一部に限られる。

インドの一人当たりGDPは、2018年度が14万2719ルピー(22万8350円)だ。これを各州と連邦直轄地別に見ると、最も高い南部のゴアが50万2425ルピー(80万3880円)、そしてニューデリーが40万2172ルピー(64万3475円)と続く。一方、最も少ないビハール州は4万7541ルピー(7万6065円)、下から2番目のウッタルプラデシュ州は6万8792ルピー(11万67円)だった。ゴアとビハール州を比較すると、実に11倍の差があることになる。

格差は社会を不安定化させる。沖縄と東京で県民所得を比較した際の格差が3倍にも満たない日本でさえこれなのだから、その危うさは容易に想像がつくだろう。

金では変わらない意識

日本人はとかく金で済まそうとする傾向が強い。あるいは送金が国際貢献だと思っている。しかし、金で済まないことはこの世にごまんとある。

下水道などの清掃に関わる労働者の多くは、カースト制度の最下層で不可触民とされた「ダリット」と呼ばれる人たち (中略) 清掃労働に関わる人たちの95%が、ダリット (中略) トイレには汚物をためるタンクや排水溝につながるパイプなどがなく、まして流すための水も用意されていない。排せつ物はトイレの下にそのまま放置されており、女性は素手やほうきを使ってそれらをかき集め、かごに移していく。かごには灰が入っており、排せつ物にかけて回収しやすくしていいるが、黙々と作業する女性は手袋やマスクをしていない。 (中略) 女性がもらえる賃金は1軒につき月で50ルピー(80円)にも満たない

日本で言えば部落問題に当たるだろうが、この種の問題は人々の意識改革抜きに解決することはあり得ない。しかし、人々の意識ほど変えることが難しいものはない。そうであればこそ、これは十年百年かかる大問題であって、外部が介入して金をやり教育を施したところで簡単に解決できるものではない

ほとんどの文明人は、カーストなんてものは無知蒙昧な愚かな制度だと笑うだろう。そのくせ、ふだん自らが平気で振りまいている差別には呆れるほど無自覚だったりする

たとえばジェンダーにまつわる諸問題には、この手の無自覚だからこそ破廉恥な暴力がひしめき合っている。だからこそ極めて解決が難しい問題なのだ。

記事カテゴリー: art

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

逆引きでわかる色鉛筆の技法書

ほとんどが図版である。 そもそも、これを読書と言っていいのかはわからないが、隅か ...

アート・パワー Art Power Boris Groys

極めて有益な一冊であった。この本を読み込んで制作すれば、今後10年くらいは“まと ...

現代絵画の再生

今まで読んだ絵画論的な本の中で一番よいと思う。正直、個人的な好き嫌いの範疇を出て ...