自炊のすすめ―単身赴任者の献立と栄養管理の手引 (高森 直史/グラフ社)
購入価格: 不明
評価:
この記事は約3分44秒で読めます
チェスや将棋の電脳戦には、機械に侵略される映画ターミネーターの文化版というような趣がある。本書で人間はあえなく敗北するのだが、ひとつ言えるのは、文化的に戦って負けるものが、暴力的に戦って勝てるわけがない。
不確実な世界を泳げる人間
まず、大前提としてコンピューターは不確実な世界が苦手である。仮に風呂の温度が「43度以上は熱い」と設定すると、コンピューターは「42.9度は熱くない」と判断する。
言うまでもなく42.9度も十分熱い。人間にとっては当然のこのファジー(fuzzy:あいまいであること)な判断、処理がコンピューターには極めて難しい。
将棋には、たとえ1秒に1800万手読んでも無駄、あるいは読みすぎると害になる、という局面も存在します。これは一つのたとえですが、付き合った男と女が結婚しようということになったとします。婚姻届を出して、一つ屋根の下で暮らしましょうと。ではそのとき皆さんは、「この人と結婚していいかどうか」について、どこまで先を読んで婚姻届けを出されたでしょうか。 (中略) 多くの場合は、先のことはどうせわからないのだから、あまりいろいろと予測はせずに、「とりあえず好き合っているのだから」ということで結婚する。それが人間の思考、判断というもの (中略) いろいろな展開を読んでいるうちに、おそらくコンピュータは「結婚なんて止めたほうがいいんじゃないの」という結論を出すのではないかと思うのです。
いい加減な人間
よくも悪くも人間の素晴らしさはいい加減なところである。しばしばそれは「直感」とも呼ばれるが、案外にそのようないい加減なものがサラッとスーパーコンピューターを超えてくるようなところがあると、私は思う。
おそらく1秒間に100万手読んでも、500万手でも、あるいは2000万手読んでも、プロとコンピュータソフトの戦いにおいては、あまり関係がないことだろうと思います。
下手の考え休むに似たりという。コンピューターは超高速で延々と考えて、そして最適と思われる答えを導き出す。しかし何時間も処理して出した答えが、浅はかな人間がほとんど当てずっぽうで出した答えと同じだったりすることは大いにあり得る。
コンピューターと言えども思考処理のコストはゼロではない。そう考えると、あるいは人間は、コンピューターにくらべるとまだまだコスパがいいのかもしれない。
人間を目指すコンピューター
AIをはじめとするコンピューターの目下の目標は、人間的な思考と振る舞いを獲得することである。
今回のボンクラーズの指し手だけを見るならば、人間が指したのか、将棋ソフトが指したのか、判別は難しいかもしれません。 (中略) 思考のプロセスはまったく異なっているにもかかわらず、現れる選択が似ているというのは、実に驚くべきことです。
目指しているうちは本書のような牧歌的イベントとして人畜無害であるが、いったんその地点に到達すれば、その後どうなるかは想像もつかない。それが技術的特異点、いわゆるシンギュラリティである。
たとえるなら、甲子園を目指して頑張っていた若者が、ドラフト一位で指名され、希望の球団に入り大活躍、富も名声も得て、そしてこれからの目的を失った時、どうしようなく空虚な状態に陥ってしまう。
私が思うに、シンギュラリティというのは、人類が機械に滅ぼされ云々のSF的な展開よりも、もっと人間の抱える虚無が加速度的に膨らむ時代の到来のように思うのだが、どうだろう。
- 前の記事
- 貧困の克服 ―アジア発展の鍵は何か
- 次の記事
- 現代アートの巨匠
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
-
読書記録
2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。
関連記事
カンディード
2021/06/25 book-review book, migrated-from-shintaku.co
この種の小説は「哲学コント」と呼ばれるらしいが、言い得て妙である。一見ばかばかし ...
絶後の記録—広島原子爆弾の手記
2013/05/22 book-review migrated-from-shintaku.co
正直、もっと歴史的な経緯や逸話が知りたかったのだが、そのようなものは全体の3分の ...
日本残酷物語4
2019/03/03 book-review migrated-from-shintaku.co
ハワイ移民について調べていた流れから読んでみたが、看板に偽りなしの「残酷物語」。 ...
コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実
2020/11/22 book-review book, migrated-from-shintaku.co
コロナによって世界がひっくり返ったという気はしない。むしろ前からずっとそうだった ...