言霊 なぜ日本に本当の自由がないのか (井沢元彦/祥伝社)

購入価格: 不明
評価:
この記事は約2分55秒で読めます
言霊(ことだま)なんて馬鹿みたいな話ではあるが、いまだにこれほど強い影響力を持っているとは思わなかった。ということがつくづくよくわかる本。
言葉は確かに大事だが、やはり一番大事なのは現実であり実態だろう。
実態を伴わないものは、まさしく机上の空論という。
日本において言霊が重要視されていることが顕著に現れているのは、言い換えである。
たとえば結婚式の披露宴では、式の終わりを「お開き」という。絶対に終わりとはいわない。なぜか。縁起が悪いからである。他の場面でも、これにてお開きなどというが、そもそもこの言葉の由来は結婚式からきている。
切れる、別れる、なども絶対に言わない。当たり前だろうと思われるかもしれないが、これこそ言霊が現代でも生きている証である。
そんな「縁起でもない」ことを言うと、それが現実に起こってしまうと考えいるのである。
本当は切れる、終わる、別れるなど、なんと言おうが、実際にそうなるか否かは本人たちの問題である。
にも関わらず、頑なに言葉の言い換えをして、悪い言霊を排除する。現実にはなんの対処もせず、ただ表面的な言葉を排除することによって、なんとなく、それですべてうまくいったような気になってしまう。
この最たるものは戦争のときの「敵性語の排除」である。
これは野球の言い換えが有名だろう。セーフはよし、アウトはだめなど、鬼畜米英の言葉を徹底的に排除した。
よくよくかんがえれば、こんなおかしな話はない。
アウトやファウルという言葉を使おうが使うまいが、現実は何も変わらない。むしろ、すべての戦いは、勝つにはまず相手を知ることから始まるのは常識であろう。
にも関わらず、表面上の言葉だけを排除し、そしてそれで鬼畜米英を一掃したような気になっている。
全滅を玉砕、敗退を転進と言い換えたのも、そんなまやかしのひとつである。
こんなまやかしはいまでも至るところである。公正真実を伝えるべき新聞でさえ、値上げのことを改定と言い換えたりする。改定は値下げの場合も含むので、正確な言葉ではない。しかし改定といって、うやむやにしてしまう。
言葉が足りないが、ぜひこの本はできるだけ多くの人に読んでほしい。
言葉の表面だけを見てなんとなく納得するのではなく、ちゃんと実態を見る、見えるようにすべきだと、強く思う。
- 前の記事
- 「道徳」という土なくして「経済」の花は咲かず
- 次の記事
- 生活リズムの文化史
出版社・編集者の皆様へ──商業出版のパートナーを探しています
*本ブログの連載記事「アメリカでホームレスとアートかハンバーガー」は、商業出版を前提に書き下ろしたものです。現在、出版してくださる出版社様を募集しております。ご興味をお持ちの方は、info@tomonishintaku.com までお気軽にご連絡ください。ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づくノンフィクション的なエッセイを執筆。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。英語の純粋な日記。呆れるほど普通なので、新宅に興味がない人は読む必要なし。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。日々の出来事や、思ったこと感じたことを台本・編集なしで吐露。毎日更新。
関連記事
ホームレスが流した涙
2020/05/26 book-review book, migrated-from-shintaku.co
彼は日本のホームレス研究というかルポライターの第一人者らしい。日本のホームレスで ...
世界がわかる宗教社会学入門
2013/03/18 book-review migrated-from-shintaku.co
珍しくドッグイヤーもふせんのひとつも付けることなく読了。 著者の吉田類は、テレビ ...
ルポ 貧困大国アメリカ
2013/02/15 book-review migrated-from-shintaku.co
私を含め、直接に戦争を知らない世代の人間の「終戦」のイメージは、ほとんどイコール ...
宗教座談
2018/03/27 book-review book, migrated-from-shintaku.co, religion
内村先生のキリスト教観には非常に親近感を覚える。特に無教会主義という考え方には心 ...
虐待父がようやく死んだ
2020/08/10 book-review book, migrated-from-shintaku.co
親は選べないとはよく言ったものである。一読して思うのは、最悪。フィクションではな ...