聞き書き ある憲兵の記録 (朝日新聞山形支局/朝日文庫)

書籍聞き書き ある憲兵の記録(朝日新聞山形支局/朝日文庫)」の表紙画像

購入価格: 不明

評価:

この記事は約2分13秒で読めます

読み終わって、なんか複雑な心持ちだけど、やはりこれはすべての人に読んでほしいと思う。

戦争そのものが悪いのか、戦争を起こした一部の人間が悪いのか、戦争の最前線で戦った人々が悪いのか。

よくはわからない。

そもそも戦争にはかならず敵があり、味方がある。この戦争においては当たり前の、"敵"という感覚がわからない。敵を倒すこと=善であり名誉であり自己実現ともなる、その感覚があまりにも遠い。

ぼくのような世代には、戦争は言葉でしかない。

戦争で勝つことを、敵を、人間をより多く殺すことをアイデンティティとして生きた人がいる、その事実が非常に重く伝わってくる。徴兵から終戦、抑留から日本への帰還までの、よくも悪くも壮大な体験記である。

また内容のいくつかを紹介。

徴兵検査のさい、しょうゆを飲むと心臓がドキドキして、何とか免れることもあるという噂があった。しかしそのような行為に対する懲罰、さらには世間の目が恐ろしかった。

上記の検査のさい、四つん這いにさせられ、肛門までのぞかれる。このときに、もしも花柳病(性病)などにかかっていれば、その場で怒鳴られ殴られることはもちろん、非国民あつかいされ、村にはいられなくなる。「お国の大事のときに」というわけだ。

かつて軍隊を運隊ともいった。戦場に出れば、いつ弾があたるかわからない。下を向いた途端にシュッときて、すぐ後ろの戦友の顔に直撃したなどという話はゴロゴロあった。

このある憲兵は、千人以上の中国人に拷問を加えたという。

漫画や映画でしか見たことがないような、水攻め、焼きゴテ、角材の上に座らせ重石を乗せる、爪の間に針を突き刺すなど、人間の所業とは思えないありとあらゆることをしたという。

しかし元は、畑を耕すときには、虫をさえ除くような人間であった。そのため、はじめて上官より拷問の手ほどきを受けたときは非常なショックを受けた。憲兵をもうやめようとも思ったという。

しかし、次第に次のように考えるようになり、中国人をおなじ人間とは思わなくなったという。

中国人を劣等民族と思い込む。チャンコロという蔑称が、その差別意識を固めさせた。そして、自分は世界一優秀な大和民族であるから、チャンコロの一人や二人殺しても何らさしつかえない。まして戦争中だ。相手は敵だ。より多くの中国人を殺せば、自分の、所属部隊の、ひいては国のためになる。

なんか、やはり人間はよくも悪くも地球上で唯一、思考する存在なのだろう。

しかしひとつくらい、思考停止する事柄があったっていいように思う。

まるきりバカになって、何も考えずに、どんな利益があるように見せかけられても、いついかなる時でも、ただただひたすらに「戦争反対」。

とにかくはそう思う。

     

ブログ一覧

  関連記事

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1)~(3)

山本夏彦の言う「戦前戦中 まっ暗史観」を思い出した。どんな過酷な状況だろうと、人 ...

超情報化社会におけるサバイバル術 「いいひと」戦略

友人のトウマくんに、この本に書かれてるのは新宅さんみたいな人ですよと言われたが、 ...

イスラーム 生と死と聖戦

この著者のおかげで、イスラムに対する味方が変わってきた。少なくとも現代、イスラム ...

「お葬式」の日本史―いまに伝わる弔いのしきたりと死生観

最後を本田宗一郎の葬儀の紹介で締めるってところが、なんだかちんぷんかんぷんな印象 ...

タブーの謎を解く―食と性の文化学

非常におもしろかつた。 【民族誌学者のフレイザーもいったように、火の中に手をつっ ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.