「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む (青弓社編集部 (著, 編集)/青弓社)

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昨今、明石家さんまなど、古参の芸人がしばしば見せる、あまりにもナチュラルな女性蔑視的態度に違和感を覚える視聴者は多いだろう。私もそのひとりである。
本書は、そのような漠然とモヤッとする感覚が、批評的文章としてしっかりまとめられている。そもそもいったい何がダメで、どこがおかしいのかを、改めて整理し再考する契機になるという意味でも、非常に有益な一冊だと思う。
「女装」によるやゆは、実は女性蔑視、同性愛嫌悪、トランスジェンダー嫌悪というトリプルパンチならぬトリプル蔑視を含んでいる表現だといえる。まず、男性が女性的な装いや振る舞いをすることを「おかしい」とする構図は「男性なのに、女性なんかのまねをする」という意味を含み、トランスジェンダーに対する蔑視はもちろん、女性に対する蔑視をも含んでいる。同時に、「女装」した本人が別の男性と絡むのを見て「気持ち悪い」という笑いが起きることも多々あるが、あくまでも周囲は「女装」をしている本人のことを「男性」として認識しているため、男性の同性愛関係を想起して笑う。ここには同性愛への蔑視や嫌悪も含まれてくるのだ。
「逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系。以下、『逃げ恥』と略記)は海野つなみによるマンガ原作をドラマ化したもので、2016年10月からスタートした。高学歴ながら派遣社員をしていた主人公の森山みくり(新垣結衣)が派遣切りにあい、父の元部下である津崎平匡(星野 源)の家で家事代行をおこなうことになり、次第にお互いが引かれ合っていくというラブコメディーだ。 (中略) 二人が恋愛関係になったときの変化には驚いた。これまでみくりが有償で仕事としてやっていた家事が、恋人になったら突然、平匡からすると無償でやってもいいものではないかと位置づけが変化したからである。 (中略) みくりは、こうした偏った「当たり前」に対してきちっと違和感を表明し、それは「好きの搾取です」と訴える。
「暴力」は人間、特に男性や芸人には必要不可欠なもので、芸人はそれを表現しないといけないものだと考え、「優しさ」や「品行方正」のほうに向かうと「暴力性」を失っているように感じて、芸人にあるまじき姿だという気がしてしまう者もいるのではないか。 (中略) ポリティカルコレクトネスに従う態度をどこか嘘くさいものと断定したり、コンプライアンスがうるさいから表現の幅が狭まるといったりする言説はインターネット上に蔓延している。 (中略) 世の中には、ポリティカルコレクトネスに「従ったように見える」行動が、自らの身体から出た嘘がない行動である人もいるのではないか。他人のために「善」で行動することと嘘があまりにも強く結び付けられているし、逆に自身の利己的な部分に嘘をつかず、自分のなかの「悪」に目を向けることこそがリアルであるとされすぎている
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