贈与論 (マルセル・モース (著), 吉田禎吾 (翻訳), 江川純一 (翻訳) /筑摩書房)
購入価格:1155円
評価:
この記事は約2分56秒で読めます
即物的な現代だからこそ、もらうこと・あげることの意味を再考する意義がある。金品の授受は、単純な損得だけではない。もっと深く、人間の、人類の根本に根ざす行為である。
あげる・もらうの無限ループ
ポリネシアのマオリ族では、贈与されたモノには精霊(ハウ)が宿っており、受け取った者は返礼の義務を負うとされている。そしてその義務は、贈与者に直接お返ししてはならず、第三者に渡さなければならないという。
ある人から何かを受け取ることは、その人の霊的な本質、魂を受け取ることになるからである。そのような物を保持し続けることは危険であり、死をもたらすかもしれない。
こう書くと前時代の呪術的な価値観に過ぎないと思われるかもしれないが、しかし現代においても贈与の意味は重い。たとえば結婚式の引き出物や祝儀の額ひとつとっても、呪術もはだしの怨恨はつきものである。
人間の潤滑油としての贈与
プラクティカルに考えれば、あげる・もらうという授受なんてしちめんどくさいことはやめた方がいい。実際、昨今はモノをあげたりもらったりするのをやめようという動きもある。人に気を使いたくないし、使われたくもないというわけだ。
気前よく人に与えることは義務なのである。というのは、女神ネメシスが貧者と神々のために、幸いと富をやたらに持っているのに、それを全く手放すことをしない者たちに復讐するからである。
希薄な関係性の未来
贈与をやめ、繋がることを避け、個々が独立し、その先に何が残るだろう。それは本当に気楽で、生きやすい世の中だろうか。気を使わないとういことは、気を使われないということである。人間はそこまで孤独に強い生き物だったろうか。
マオリ族の優れた格言もそれを述べている。
Ko Maru kai atu Ko Maru kai mai ka ngohe ngohe
「貰ったのと同じだけ施しなさい。そうすれば万事うまくいく」
人間は社会的動物である
我々のDNAは、二百万年前にサバンナを走り回っていたころとなんら変わりがない。その事実を思い出そう。人間の喜怒哀楽は、その頃と呆れるほどに同じなのだ。そこでポリネシアの未開の部族の感覚が、表現こそ違えど、本質において我々とかけ離れているはずがない。贈与は、言葉と同じくらい人間にとって重要なことなのだ。
モースは著名な社会学者デュルケムの姉の子であり、幼少の時からこの叔父から教えを受けた。モースは冗談好きの大男であったという。
デュルケムの「自殺論」を読んだのはもう何年も前のこと。学者のDNAもまた途切れず続くということか。
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
関連記事
愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか
2017/07/02 book-review book, migrated-from-shintaku.co, religion
新書らしからぬ濃厚さを感じた一冊。意義深い議論が目白押し。
ユダヤ人
2017/01/04 book-review book, migrated-from-shintaku.co
黒人作家のリチャードライトの有名な言葉「合衆国には黒人問題など存在しない。あるの ...
マッカーサーが来た日―8月15日からの20日間
2021/10/05 book-review book, migrated-from-shintaku.co
当たり前だが、終戦記念日は8月15日というたった一日しかない。しかし、そのように ...
西洋美術とレイシズム
2021/06/11 book-review book, migrated-from-shintaku.co
写真でなくても、映像でなくても、何百年も前から、プリミティブな絵で、彫刻で、黒人 ...
図説 オランダの歴史 改訂新版
2021/10/02 book-review book, migrated-from-shintaku.co
あたり前だがどこの国にも歴史があり、浮き沈み、毀誉褒貶がある。栄光の17世紀に、 ...