裏切られた発展―進歩の終わりと未来への共進化ビジョン (リチャード・B. ノーガード (著), Richard B. Norgaard (原著), 竹内 憲司 (翻訳)/勁草書房)

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原始の時代を考えれば、確かに人間は神様でもにわかには信じがたい発展を遂げてきた。しかし、それが今後も続くかというと、非常にあやしい。
最近報じられた、世界10カ国の若者の9割以上が、気候変動問題と地球の未来について不安を抱いているというのは、そのひとつの証左であろう。これまでなら、テクノロジーの進歩がなんとかしてくれるという楽観でうやむやにされたはずだ。
つまり、もはや誰も手放しで進歩を礼賛してもいないし、信頼してもいないということだ。
モダニズム最初の重要な教義は、西洋科学が着実に前進していて、より良い技術と組織化の方法を常に編みだしており、これまでと同じように将来世代は現在世代よりも良い暮らしを送るだろうというものである。
近代的な進歩観が、今後長続きすることはないだろう。近代的進歩は物事を知り、環境を操作する私たちの能力と深く関係している。そのために、必要とされる教育水準はどんどん高くなっていく。そして、より長い期間が学校教育に費やされる。アメリカで1870年から1980年の間に起きた高等教育で費やされる時間の比率増加を引き延ばして考えると、2062年にはすべての大人が一生学校に通うことになる。 (中略) いかなる個人も、学習能力には明らかな限界がある。集団は、この限界を特化によって乗り越える。しかしながら、特化は協調を必要とし、間違いなく費用を増大させる。経済学者フランク・ナイトは、社会組織にまつわる重要な原則を発見した。個人が学習できる技能の数や知識の種類には限界があるが、個人を特定の技能や知識の種類に特化させることで、社会はどんな個人よりも多くのことを実行し、多くのことを知ることができる。しかし、そうした個人の技能や知識には調整が必要である。調整そのものが時間や労力を要求し、調整に特化する人間を必要とする。二人の個人を調整し結びつける線は一本である。三人であればそれは三本となる。四人であれば六本、五人であれば十本となる。特化が進むにしたがい、n人の間に分散した技能や知識を調整する費用は、n(n-1)/2の率で、指数的に増加していく。
熱力学第一法則は、エネルギーや物質を創造したり破壊することはできない、というものである。物質とエネルギーはアルバート・アインシュタインのE=mc2という有名な公式を通して等式化される。一方はもう一方へ変換できるが、一方を創造したり破壊することなく、もう一方を創造したり破壊することはできない。第一法則は私たちが失うことは決してできないということを示唆している。 (中略) 社会科学者は、法則がどの程度まで真実であるのか、それに代わる新しい理論はないのか、頻繁に自然科学者に尋ねている。ポール・エーリックは以下のように応えている。
『熱力学の法則が地球上で毎日起きていることの記述として覆されるのを待つのは、まったく、暑い天候の中でビールが自分で冷たくなったり、高速道路で車に轢かれた猫が自然に元通りになって歩き出すのを待つようなものである。』
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