現代美術—ウォーホル以後 (美術手帖編集部/美術出版社)

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老いることも死の恐怖もない。胸糞の悪い、嫌なことがあった時は、二日酔いのような不快な後遺症もないソーマは飲めばきれいさっぱり気持ちよく一瞬でトリップ。正直、それは確かに「素晴らしい世界」だなと思う。しかし同時に、奇妙さと、抵抗感もあって、ああ、そうか、我々はなんだかんだ、結局のところ苦痛を愛してしまっているんだなと、気がつかされる。

「きょう楽しめることをあすに延ばすな」レーニナはいかめしく言った。「十四歳から十六歳半まで、週二晩、ひと晩二百回ずつ聞かされる文句だ」というのがバーナードの返答だった。どうしようもないめちゃくちゃな発言はなおも続いた。「情熱がなんなのか知りたい」という言葉が聞こえた。「なにかを強く感じたい」「個人の感情は社会の乱調」とレーニナがまた標語を引く。

「熱による条件づけをほどこすためです」とフォスターくんが言った。「トンネルは熱い部分と冷たい部分が交互に来る。冷たい部分には強いX線が照射され、それによって冷たさと不快感が恒常的に結びつく。そのため、この条件づけを受けた胎児は、出瓶後、寒さを恐れるようになる。こうした胎児は熱帯に送られて、鉱山や合成繊維工場や製鉄所で働くことが決まっている。その後、彼らの精神も、肉体に付与されたこの傾向に合致するよう調整される。「熱帯ですくすく育つように条件づけしてやるんです」とフォスターくんは説明した。「暑さを好きになるうに、上の階の同僚が教育します」「そしてそれこそが、幸福と美徳の秘訣なんだよ」と、所長がもったいぶって口をはさんだ。「すなわち、置かれた場所を好きになること。条件づけがめざすのは、つまるところそれだけだと言ってもいい。人間だれもが、逃れられないみずからの社会的運命を気に入るようにしてやること」

「ひどい仕事? 彼らはひどいなんて思ってないさ。その反対に、いい仕事だと思っているよ。子どもでもできるような簡単な軽作業だからね。頭脳にも筋肉にも負担がかからない。疲れない程度の軽い労働を七時間半やれば、あとは配給分のソーマとゲームとフリー・セックスと感覚映画が楽しめる。それ以上、なにを求める? たしかに、労働時間の短縮を求めるかもしれない。もちろん、それは実現可能だよ。技術的に言えば、下層階級全員の労働時間を一日三時間か四時間にまで短縮することは造作もない。しかし、そうなったとして、彼らはいまより少しでもしあわせになるだろうか? いや、ならない。その実験は、いまから一世紀半も前に行われている。アイルランド全土で、一日四時間労働制が実施されたんだよ。結果は? 社会不安が起こり、ソーマの消費量が大きく増えた、ただそれだけ。一日あたり三時間半プラスされた余暇は、しあわせの源になるどころか、人々はそれから逃れるためにソーマの休日をとることを強いられたんだ。

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