現代美術の流れ―1945年以後の美術運動 (エドワード ルーシー・スミス (著), 岡田 隆彦 (翻訳), 水沢 勉 (翻訳)/PARCO出版)
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ホームレスに関しては一家言も二家言もある。なんと言っても私は、ロサンゼルスのホームレス100人以上とハンバーガーをかじり合った男なのである。(現代美術作品「ONE BITE CHALLENGE」シリーズの撮影風景参照)
自己責任の果てに
怠けて勉強もせず働きもしなかったから、ホームレスになった。自業自得だ。これは日本では相当に幅を利かせている意見である。
「役者と乞食は3日やったらやめられないって言うだろう、あれは本当だな。」
そこでこのような物言いがホームレス自身の口から出れば、いかにもおあつらえ向きである。しかし私は全力で否定したい。
現代、資本主義社会、私もあなたも、誰も彼もホームレス予備軍だ。
因果の外
ああすればこうなる。仏教の根本的な考えとして据えられている因果とは、そういうことである。原因があって、結果がある。
それがこの世の真理であることは認める。否定のしようがない。しかし、その因果は、すべてその人自身の責によるものだろうか。
そもそも、この世に因果をコントロールできる人などいるのだろうか。
こういう暮らしをしていると、恥という感覚が日に日に失せていくんだ。ごみ箱に手を突っ込んで雑誌拾いするのだって何とも感じなくなった。ボランティアさんがやっている給食もはじめは惨めで情けなくて、新聞で顔を隠していたけど今はもう何とも思わないものな。道を歩くときも前は人に見られるのが嫌で下を向いて歩いていたけど今は普通に歩いている。
しばしば鬼の首でも取ったように叫ばれる「自己責任」とは、そういうことである。すべて、あなたのせい。あなたの責任。あなたが悪い。
人生というものは、ほとんどすべて、自分でそうしようと思ってもそうはならないもので、ああしようと思ってもああはならないもので、つまり、ままならない。
たとえ今、あなたの人生が順分満帆だとして、それは本当にすべてあなた自身で勝ち取ったものだろうか。たぶん9割がたは、生育環境含め因果の外の運、たまたまではないだろうか。
生きて虜囚のなんとか
アメリカの人口は日本の3倍。しかしホームレスの数は日本の124倍、57万人にも及ぶ。
定食屋を出てカプセルホテルに戻る道すがら某ファーストフード店の裏口付近でゴミ袋を漁っているホームレスと出くわす。「嫌だねえ、ああいう人は……あんなふうになったら死んだ方がましだよ」とノブさんは顔をしかめた。
やっぱりアメリカは格差が、社会構造が、云々。日本とは何もかも違う、だからアメリカの状況は対岸の火事に過ぎない、というような説明は日本人の好みである。
しかしそれは、猟奇殺人者の異常性を並べ立て、あれは我々とは違う化け物だったのだと切り捨てて安心しようとする根性となんら変わるところがない。
アメリカで起こったことは10年後に日本でも起こると言われる。それとは別に、私はこう考えている。
多くの一般市民以下ホームレス未満の人々は、米国の文化人類学者ルース・ベネディクトの指摘した「恥の文化」のままに、自ら命を絶っているのではないか、と。
先に引用したノブさんはホームレスである。しかしいくばくかの収入があって、ゴミ箱を漁るほどではない。それでも、ああなったら死んだ方がマシだという。なぜか。日本人には説明の必要がないだろう。
いくら独立自助の精神を重んじるアメリカとて、それに変わる民間の支援団体や制度は山ほどある。寄付文化やボランティア活動は日本よりもよほど熱心に行われているのはよく知られるところである。それで、むしろ公的な社会保障制度の不足を補って余りあるようにさえ見える。
そこで124倍などという差は、何かあまりにも不自然ではないだろうか。
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