菊と刀 (ルース ベネディクト (著), Ruth Benedict (原著), 角田 安正 (翻訳)/講談社)
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十年くらい前に一度読んだことがあるが、その時はそこまで面白いとは思えなかった。しかし今、アメリカにいるからこそもう一度読み返してみることにした。結果、信じられないほど感銘を受けた。私が言うまでもないが、間違いなく不朽の名作である。
戦争があったからこそ生まれた本
本書は第二次世界大戦において、米国が日本という未知の敵と戦うにあたり、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という孫子の兵法的な精神のもとに書かれた本である。
アメリカ合衆国が全面的な戦争においてこれまで戦った敵の中で、日本人ほど不可解な国民はなかった。手ごわい敵と戦争になったことは以前にもあったが、見越しておかねばならない行動と思考の習慣がこれほどいちじるしく異なっていた例はない。
逆に日本は、敵である米国のことをまったくと言っていいほど調べていない。当時、米国が日本語のエキスパートの養成に血道を上げていたことを思えば、その差は歴然、もとい結果は必然かもしれない。
恥の文化と罪の文化
このあまりにも有名な日本と西洋の意識構造の差異を、和装も日本家屋も過去の遺産となり果て、完全に西洋化して久しい今こそ、あらためて考えてみることは決して無駄ではあるまい。我々は往時にくらべれば相当に恥知らずになったと思うが、どうだろう。
ベネディクトは「恥」を次のように定義している。「恥は周囲の人々の批判に対する反応である。人前で嘲笑されたり拒絶されたりするか、そうでなければ、嘲笑されたと思い込むことが恥の原因となる。いずれの場合も、恥は強力な強制力となる。しかしそれが作動するためには、見られていることが必要である。あるいは、少なくとも見られているという思い込みが必要である」。
忠犬ハチ公的な
戦中は天皇が絶対であった。文字通り、天皇(の名を借りた上官)が死ねと言えば死ななければならなかったし、実際そうして夥しい人々が死んだ。
現代、天皇は絶対ではなくなったが、代わりに会社に代表される組織が絶対の存在となった。だから世にも奇妙な過労死(KAROSHI)なんてものが起こる。忠誠を誓えば命も捨つるという日本人の精神構造は不変で、単に死に方が変わっただけではないか。
日本人の見方によれば、法に従うということは最重要の恩義、すなわち皇恩を返すことに他ならない。このような物の見方ほど、アメリカ人の思考様式との対照性を浮き彫りにするものはないだろう。アメリカ人にとって新規の法律は、赤信号の設置に関する道路交通法から所得税法に至るまで、全国民から忌み嫌われる。なぜならそれによって、自分のことを自分で決める自由を奪われるからである。
だいたいのことは他人事
広島平和記念公園の慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と刻まれている。これに主語がないとはよく言われることで、過ちを犯したのは日本か、米国か、あるいは両方か。
恥は集団ではなく個人が名指しされて初めて感じるものである。なるほど、そう考えるとこの文はうまく考えたものだ、というのはもちろん皮肉である。日本人にとっての責任は恥に似て、はっきり誰々と特定されない限り、責任も恥も作動せず、何をされても言われても平気で無関心なのである。
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