太平洋戦争終戦の研究 (鳥巣 建之助/文藝春秋)
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また戦争の本である。あるのだが、戦争は大事。何度でも言うが大事。よく学んでおくようにと、自分で自分にしっかり言っておきたい。
さて、この鳥巣建之助という著者。実はジャーナリストでも学者でもなくあの特攻、人間魚雷回天の作戦担当参謀を務めた元軍人である。つまり、第二次世界大戦の生き証人というわけである。
そういうわけでこの本は、著者が目の当りにしてきた悲惨極まりない戦争が一体なんのだったのかというような、ある種の反省から書かれたものである。そのためか、歴史資料的な記述で、冷静に淡々と出来事とその流れが記されている。
まずは回天の出撃に当たっての、大西中将という人物の訓示を、本書よりご紹介。
【大西中将は特攻隊員を前にして訓示——いや懇願であった——したのであるが、彼の顔面は蒼白で、足はブルブルと震えていた。おそらく断腸の思いを禁ずることができなかったのであろう。
「日本はまさに危機である。しかもこの危機を救いうるものは、〜中略〜諸子のごとき純真にして気力にみちた若い人々である。したがって自分は一億国民にかわってみなにお願いする。みなの成功を祈る。みなはすでに神であるから、世俗的な欲望はないだろう。だが、もしあるとすれば、それは自分の体当たりが成功したかどうか、であろう。みなは永い眠りにつくのであるから、それを知ることはできないであろう。われわれも、その結果をみなに知らせることはできない。自分は、みなの努力を最後まで見届けて、上聞に達するようにしよう。この点については、みな安心してくれ。……しっかりたのむ」】
自爆攻撃などを行う時点で負けは見えているではないかと、ぼくの父などもよく言っていたが、まさにその通りだと思う。なにが悲しくて、そんな死に方をせねばならないのか。しかし、この上官の「顔面は蒼白で、足はブルブルと震えていた」という記述には、少なからず救いがある。個人が、人間が鬼になっているのではなく、時代の、社会構造の空気が、圧力が、そのように突き進ませたのだろうということが感じられるからである。個人だけは、あくまでも人間であり続けたのだとという救いを、ぼくはそこに見る。いや、見い出したい。
以下、本文より引用。
【神風特攻作戦は〜中略〜天皇に上奏された。万死に一生もない特攻をお耳にされた天皇が異常の衝撃を受けられたことは、想像を絶するものがある。「そのようにまでせねばならなかったか」と絶句され、そして「しかし、よくやった」とおおせられた。】
【終戦直前の話であるが、当時十一歳の少年であった殿下は、奥日光の南間ホテルに疎開中であった。〜中略〜疎開した少年たちを激励するために〜中略〜次のような演説をやった。〜中略〜わが軍は特攻隊先方を中心として赫赫たる戦果を挙げている。〜中略〜皇太子様はただだまってお聞きになっているだけで、質問なさる気配がない。〜中略〜『殿下、なにかご質問はありませんか』〜中略〜『なぜ、日本は特攻隊戦法を取らねばならないのか』私は思わずギクッとしたものです。】
(1945年4月末の、アメリカでの原子爆弾についての報告——引用者)
【将来は、かかる兵器は秘密裡に製造され、突如として猛烈な破壊力をもって使用されるかもしれぬ。この兵器の力によれば、きわめて強大にして不安のない国家も、わずか数日にして弱小国のために征服されるともかぎらない。】
(原子爆弾の攻撃目標について——引用者)
【グローブスは、東京、京都、広島、新潟などを考え、スチムソンに提示した。スチムソンはまず東京は駄目だ、と反対した。〜中略〜皇居を初弾で破壊することは愚の骨頂である。天皇は、日本の象徴以上のもので、日本再建になくてなならぬ人である。
つぎは京都である。スチムソンは言下に、「京都はこまる」と拒否した。京都は日本の芸術と文化の中心であり、かつての首都であり〜中略〜最終的に残ったのは小倉、広島、新潟であった。】
(ポツダム宣言に対する日本の回答について——引用者)
【日本の言い分は、結局のところわれわれが天皇に処刑を加えなければ降伏するということだった。】
(海軍大臣米内大将の終戦にあたっての言葉——引用者)
【言葉は不適当かと思うが、原子爆弾やソ連の参戦はある意味では天佑だ。】
引用終わり。
ポツダム宣言に対して、日本はしっかり条件をつけていたのであった。すなわち天皇だけは守ること。実際、ポツダム宣言を受け入れるか否かの紛糾した会議においても、この条件が呑まれなかった場合の対応だけは一致していた。天皇が守られない場合は、戦争は続行だと。
原子爆弾さえ退ける天皇。天皇とは一体なんなのだろうかと、あらためて思う。
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