オランダモデル―制度疲労なき成熟社会 (長坂 寿久/日本経済新聞出版)

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国土のほとんどが海面より低い(海抜200メートル以下)で、その4分の1が海面より低いというオランダは、長年水害に悩まされてきた。

その自然との戦いは治水の歴史、オランダ的価値観へと昇華して、一切を無理やりに抑え込むのではなく、現実的に可能な範囲で「コントロールする」という文化として今も機能しているというのは非常に興味深い。

有名な,飾り窓、や麻薬(ソフトドラッグ)の自由化、安楽死問題などをみて、とくにそう思い始めていたが、オランダの人々にインタビューするたびに、様々な場面で多くの人が「コントロール」という言葉を口にすることに気づいた。そして考えてみれば、水のみならず、土地も、風景も、人間関係も、感情も、そして規則も法律通り施行するのではなく、コントロールしているオランダ人に気づく。そういえば戦後経済計画を最初に導入した資本主義国もオランダだったのである。

ヨーロッパ大陸の人口増加とともに、人々はやがてその低地にできた高台に住み始め、帆船の時代になると、北海に注ぐアムステル川に堤防(ダム)をつくって水を制御し、アムステルダムという町をつくり、ロッテ川にダムをつくってロッテルダムという町をつくった。さらに堤防を築き、湖を干拓して国土を造成。今もオランダ人の三分の二の人々が海面下の土地に住んでいる。

オランダの麻薬教育の特色は、まず、「麻薬の使用は、アルコールの使用や喫煙、ギャンブルと同様に悪い」という哲学に基づいていることにある。「アルコールの使用ならOK、麻薬使用は問題」ではなく、「すべての刺激物は健康に悪い」というのが正しい教育であるという立場をとっている。つまりオランダでは依存症となるものを同列に扱って教育しているのである。

オランダは麻薬中毒者の90%以上がコンピュータ・データベースに捕捉(入力)されている世界で唯一の国である。また、麻薬中毒からの脱却は、本人の決意なしにはできない。そこで彼らを逮捕すると、「刑務所へ行くか、治療を受けるか」を選択させる政策をとっている。まず治療のチャンスを与えることに努力しているのだ。さらに、エイズ問題が起こる以前から、中毒者の健康を保護する目的で、清潔な注射針を無料で提供するサービスも行ってきた。地域の麻薬診療所以外に、アムステルダムの“飾り窓地区”など麻薬中毒者の多い地域に、NGOが臨時の無料交換所を作っている。麻薬を常用しなければならないのなら“安全な麻薬使用”を図るよう支援する政策措置である。この政策のおかげで、エイズ患者の数がほかの国に比べて少なく、かつ減少しているのである。

     

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