10年後の日本 (日本の論点編集部編/文藝春秋)

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結局、取材や報道というものは下世話なものなのだなと思う。もちろん、その下世話な内容を期待して本書を手にした私なのではあるが、それにしても、である。

なんというか、本書自体が壮大な美談のようで、読んでいてしみじみと興ざめさせられるものがあった。

被災地では、記者として聞かなければならない質問が二つある。
「ご自宅は?」「ご家族は?」
悲しみの深部をえぐる問いかけに、時折心が砕けそうになる。
渡辺宏美さん(35)に出会ったときもそうだった。
「申し訳ありません」と渡辺さんは私に向かって頭を下げた。
「家も家族も無事なんです」
高台に建てられた130平方メートルの3LDKは、津波の被害を免れた。
ところが、取材の翌朝、一家は隣の登米市に引っ越していった。
断水が続く南三陸町では、津波でスーパーも雑貨店も流され、生活できない。
「何よりね、町を歩いてると、周囲に『あんたはいいちゃね、家も車も無事で』と言われている気がして、時々胸が張り裂けそうになるんです」

今後、海辺で見つかる遺体が減り始めたときにどうする
すでに陸地は捜索し尽くした。残された手段は一つ。
海底を網でさらうかどうか――。
「警察内部にも反対はある」と宮城県警の幹部は打ち明けた。
「いくら亡くなっているとはいえ、身内が網にかけられて引き揚げられることを、家族はどう思うだろうか」
夏が迫っている。

なぜ24歳の若い女性があの日、あの場所で命を落とさなければならなかったのか。それは本来避けられた「死」ではなかったのか――。遠藤未希さんの「死」を巡っては震災直後から、多くの町民の命を救った町職員の「美談」として報じられることがほとんどだった。 (中略) 自らの命を投げ出して人の命を助けることが尊ばれる社会が、本当に人に「優しい」社会と言えるのか

『本来避けられた死』というような表現は、ニュースなどでも日常的に使われる表現だが、非常に違和感がある。いったい『本来』とは何なのか? そんなものあるのだろうか。

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