ギリシア悲劇入門 (中村善也/岩波書店)

書籍ギリシア悲劇入門(中村善也/岩波書店)」の表紙画像

購入価格: 不明

評価:

この記事は約2分4秒で読めます

読者の単なる興味本位を超えて、犯罪・テロという切り口から、現代の状況を浮かび上がらせ、あらためて我々いかなる時代を生きているのかを考えさせてくれる良書。どんな悪人も、我々と無関係ではなく、むしろ完全に地続きでつながっている。その認識から始めなければならない。

内閣情報分析官としてテロ情勢の分析を担当していた小林良樹は、「学説上、テロの定義については様々な見解が存在しており、現時点では明確な決着は付いていない」と断った上で、テロリズムに関する主要な学説や主要国の法律に共通して含まれている要素を3つ挙げる。
(1) 目的として何らかの「政治的な動機(political motive)」を持つこと。
(2) 目的達成の手段として、(直接の被害者等のみならず)より多くの聴衆に対する「恐怖の拡散(spreading fear)」を狙っていること。
(3) そのために「違法な暴力(illegal violence)あるいは暴力による威嚇(threat of violence)」を利用すること。

酒鬼薔薇と同じ昭和57年生まれの加藤の秋葉原事件も、結果的には多くの言葉が費やされたと言っていいだろう。それでも東は言う。「現代社会では、異常性を備えた事件を通して社会全体を理解するという、社会的包摂の回路そのものが弱体化しています」「したがって、何か異常な事件が起きたとき、それに対して過剰に意味を読み解こうとする行為そのものが、愚かにみえてしまう。むしろ、単なるアノマリー(異常なもの)としてリスク管理で処理しなさい、だって単なる犯罪でしょ、というスタンスの方が賢くみえてしまう。そういう時代になっています」。では、それから更に10年以上経った現在ではどうか。

10年に1度行われる〈社会階層と社会移動全国調査〉の平成27年の回で、日本の経済格差に関して「チャンスが平等なら競争で貧富の差が広がっても仕方がない」──つまり、いわゆる〝自己責任論〟を容認するひとは全体の過半数=52・9%に及び、特に大企業のサラリーマンなどミドルクラス以上ではその傾向が強いという。そして同記事は社会学者の橋本健二による、飯塚幸三に対するバッシングは「一種の公務員たたき」で、「戦前、戦中には、経済統制下の配給などで不正や干渉を働いた役人に対する怒りが国民の間にあり、それが日本人の公務員嫌いの根源」という分析を踏まえ、以下のように結論付ける。「努力すれば報酬が得られる、何も得られないのは頑張っていない証しだ、と考える人々にしてみれば、市場原理にさらされず、競争の仕組みが働いていないように思われがちな公務員もたたきやすい。その原理は人の犯した罪にも及ぶ。罪の「責任」を回避しているように見える加害者に「特権階級」だと攻撃が集まるのはこうした意識が働くからだ」。

     

ブログ一覧

  関連記事

Children's Book About Manners: A Kids Picture Book About Manners With Photos and Fun Fact

ものを食べる時は口閉じろ。見てて不愉快だと、子供にしっかり教えてんだなあ。 we ...

頭脳―才能をひきだす処方箋

昭和33年、米を食べると馬鹿になる。麦を食べなさいという「米食低能論」を唱えた迷 ...

愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか

新書らしからぬ濃厚さを感じた一冊。意義深い議論が目白押し。

養老孟司特別講義 手入れという思想

養老先生を崇拝しているが、共感し過ぎてしまうので、たまにしか読まないようにしてい ...

英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語

とてつもなく興味深い本。岡倉天心のかっこよさ。必読である。

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.