ギリシア悲劇入門 (中村善也/岩波書店)

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読者の単なる興味本位を超えて、犯罪・テロという切り口から、現代の状況を浮かび上がらせ、あらためて我々いかなる時代を生きているのかを考えさせてくれる良書。どんな悪人も、我々と無関係ではなく、むしろ完全に地続きでつながっている。その認識から始めなければならない。

内閣情報分析官としてテロ情勢の分析を担当していた小林良樹は、「学説上、テロの定義については様々な見解が存在しており、現時点では明確な決着は付いていない」と断った上で、テロリズムに関する主要な学説や主要国の法律に共通して含まれている要素を3つ挙げる。
(1) 目的として何らかの「政治的な動機(political motive)」を持つこと。
(2) 目的達成の手段として、(直接の被害者等のみならず)より多くの聴衆に対する「恐怖の拡散(spreading fear)」を狙っていること。
(3) そのために「違法な暴力(illegal violence)あるいは暴力による威嚇(threat of violence)」を利用すること。

酒鬼薔薇と同じ昭和57年生まれの加藤の秋葉原事件も、結果的には多くの言葉が費やされたと言っていいだろう。それでも東は言う。「現代社会では、異常性を備えた事件を通して社会全体を理解するという、社会的包摂の回路そのものが弱体化しています」「したがって、何か異常な事件が起きたとき、それに対して過剰に意味を読み解こうとする行為そのものが、愚かにみえてしまう。むしろ、単なるアノマリー(異常なもの)としてリスク管理で処理しなさい、だって単なる犯罪でしょ、というスタンスの方が賢くみえてしまう。そういう時代になっています」。では、それから更に10年以上経った現在ではどうか。

10年に1度行われる〈社会階層と社会移動全国調査〉の平成27年の回で、日本の経済格差に関して「チャンスが平等なら競争で貧富の差が広がっても仕方がない」──つまり、いわゆる〝自己責任論〟を容認するひとは全体の過半数=52・9%に及び、特に大企業のサラリーマンなどミドルクラス以上ではその傾向が強いという。そして同記事は社会学者の橋本健二による、飯塚幸三に対するバッシングは「一種の公務員たたき」で、「戦前、戦中には、経済統制下の配給などで不正や干渉を働いた役人に対する怒りが国民の間にあり、それが日本人の公務員嫌いの根源」という分析を踏まえ、以下のように結論付ける。「努力すれば報酬が得られる、何も得られないのは頑張っていない証しだ、と考える人々にしてみれば、市場原理にさらされず、競争の仕組みが働いていないように思われがちな公務員もたたきやすい。その原理は人の犯した罪にも及ぶ。罪の「責任」を回避しているように見える加害者に「特権階級」だと攻撃が集まるのはこうした意識が働くからだ」。

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