図説 オランダの歴史 改訂新版 (佐藤 弘幸/河出書房新社)

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あたり前だがどこの国にも歴史があり、浮き沈み、毀誉褒貶がある。栄光の17世紀に、オランダ病と呼ばれた20世紀、その後オランダの奇跡を起こし、そしてSDGsを牽引する、いま現在。

かたや日本の失われた10年、20年、30年。日本の奇跡と言われる日は来るのか、どうか。まったく来る気がしないので、私はオランダにゆく。

西洋人のなかで日本との付き合いがもっとも長いのがオランダ人で、1600年の関ヶ原の戦いの年に始まって現在にいたっている。ただしオランダ人が日本人を初めてみたのはもう少し古い1583年のことで、ローマに向かう天正少年使節(クアト口・ラガッツィ)がインドのゴアに立ち寄ったとき、当時のゴア大司教に仕えていたオランダ人のリンスホーテン(1563ー1611)がこの4人の日本人少年に面会している。彼はオランダに帰国後『東方案内記』(1596年)を出版してオランダ語で日本のことを紹介しており、オランダ人にとって日本はまったく未知の世界ということではなかった。

17世紀はオランダの経済がもっとも輝いていた時代で、旺盛な経済活動に呼応する形で干拓事業が展開された。 (中略) ホラント州の北部地方では17世紀に48件の干拓事業があり、約2万7000ヘクタールの土地が新たに獲得された。この段階になると都市の大商人や資産家、貴族などが積極的に干拓事業に投資し、千拓は営利事業に変わっていく。新たに造成された土地は10ヘクタールほどの短冊形に区画されて出資者に配分された。興味深いことは、投資額の大きな人がまとまった大きな土地を優先的に入手して有利にならないように、そういう人には何カ所かに分散して配分されたという。こういうところにオランダの伝統的な民主主義の起源があると誇らしげにいう人もいる。

関ヶ原の戦いの年1600年に、九州の臼杵(うすき)にオランダ船リーフデ号が漂着したことはよく知られている。 (中略) リーフデ号の船尾についていたエラスムスの木像は、廃船のときにとりはずして保管されたらしく、明治になって栃木県佐野市の龍江院という寺に貨狄(かてき)尊者像として祀られていることがわかった。地元の人は南蛮恵比須という名で親しんでいたという。カトリック教徒にしてルネサンス最大の人文主義者が異国の片田舎で恵比須さまにおさまるとは、本人もさぞ苦笑したであろう。

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