アイヌ学入門 (瀬川 拓郎/講談社)

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つい先日、お笑い芸人が「あ、犬」というネタを披露して炎上していたが、中途半端な情報こそ一番の害悪だと思う。それならいっそ、「アイヌ」という単語すら知らないほうがいい。少なくとも本書を読めば、なんとなくノリでネタにして笑うような醜態をさらすことだけは避けられるだろう。

世界中のどの民族とも異なるアイヌの特徴を一言であらわすとすれば、「日本列島の縄文人の特徴を色濃くとどめる人びと」ということになるでしょう。縄文文化は北海道から琉球列島にかけて一万年以上も続きましたが、アイヌは日本列島に暮らしたこの縄文人の特徴をよく残しているのです。日本のマジョリティである私たち和人は、弥生時代に朝鮮半島から渡ってきた人びとと、日本列島の先住民である縄文人が交雑して成立した集団です。アイヌはサハリンの先住民や和人などと混淆することもありましたが、基本的にこの交雑化を積極的には受け入れようとしなかった縄文人の末裔であり、その文化には縄文文化の伝統も認められます。

アイヌ語を日本語の方言のようなものとおもっている方がいるかもしれません。しかしアイヌ語は、周辺地域に親戚関係にあるような言語が確認されておらず、日本語とアイヌ語も、構造的に深いレベルで異なる言語であるとされています。両者の同系関係はあるともないともいえない、つまり系統は不明だというのです。アイヌ語は、語順が日本語と同じという特徴があります。たとえば、「天から役目なしに降ろされたものはひとつもない」と訳されるアイヌ語は、kanto or wa yaku sak no a-rankep shinep ka isam(天/そのところ/から/役目/をもっていない/よく〜する/下がる・させる・もの/ひとつのもの/も/ない)、というものです。しかし言語学者の中川裕によれば、日本語が接尾辞優勢であるのにたいし、アイヌ語は接頭辞が優勢というちがいがあります。

以下のアイヌの方のインタビューは興味深い。そのあたりは、確かにDNAに刻み込まれて消えないものがあろうと思う。

アイヌは記憶の力に優れているとおもいます。これは自慢話ではなく、つい100年前まで文字をもたず、どのようなことでも記憶にとどめておくしか記録するすべのなかった人びとにとって、それは当然のことではなかったでしょうか。

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