アイヌ学入門 (瀬川 拓郎/講談社)

購入価格:549円
評価:
この記事は約2分41秒で読めます
つい先日、お笑い芸人が「あ、犬」というネタを披露して炎上していたが、中途半端な情報こそ一番の害悪だと思う。それならいっそ、「アイヌ」という単語すら知らないほうがいい。少なくとも本書を読めば、なんとなくノリでネタにして笑うような醜態をさらすことだけは避けられるだろう。
世界中のどの民族とも異なるアイヌの特徴を一言であらわすとすれば、「日本列島の縄文人の特徴を色濃くとどめる人びと」ということになるでしょう。縄文文化は北海道から琉球列島にかけて一万年以上も続きましたが、アイヌは日本列島に暮らしたこの縄文人の特徴をよく残しているのです。日本のマジョリティである私たち和人は、弥生時代に朝鮮半島から渡ってきた人びとと、日本列島の先住民である縄文人が交雑して成立した集団です。アイヌはサハリンの先住民や和人などと混淆することもありましたが、基本的にこの交雑化を積極的には受け入れようとしなかった縄文人の末裔であり、その文化には縄文文化の伝統も認められます。
アイヌ語を日本語の方言のようなものとおもっている方がいるかもしれません。しかしアイヌ語は、周辺地域に親戚関係にあるような言語が確認されておらず、日本語とアイヌ語も、構造的に深いレベルで異なる言語であるとされています。両者の同系関係はあるともないともいえない、つまり系統は不明だというのです。アイヌ語は、語順が日本語と同じという特徴があります。たとえば、「天から役目なしに降ろされたものはひとつもない」と訳されるアイヌ語は、kanto or wa yaku sak no a-rankep shinep ka isam(天/そのところ/から/役目/をもっていない/よく〜する/下がる・させる・もの/ひとつのもの/も/ない)、というものです。しかし言語学者の中川裕によれば、日本語が接尾辞優勢であるのにたいし、アイヌ語は接頭辞が優勢というちがいがあります。
以下のアイヌの方のインタビューは興味深い。そのあたりは、確かにDNAに刻み込まれて消えないものがあろうと思う。
アイヌは記憶の力に優れているとおもいます。これは自慢話ではなく、つい100年前まで文字をもたず、どのようなことでも記憶にとどめておくしか記録するすべのなかった人びとにとって、それは当然のことではなかったでしょうか。
- 前の記事
- すばらしい新世界〔新訳版〕
- 次の記事
- 謎の物語
出版社・編集者の皆様へ──商業出版のパートナーを探しています
*本ブログの連載記事「アメリカでホームレスとアートかハンバーガー」は、商業出版を前提に書き下ろしたものです。現在、出版してくださる出版社様を募集しております。ご興味をお持ちの方は、info@tomonishintaku.com までお気軽にご連絡ください。ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んでも一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。日々の出来事や、思ったこと感じたことをとりとめもなく吐露。死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
関連記事
脳は空より広いか―「私」という現象を考える
2021/09/08 book-review book, migrated-from-shintaku.co
脳は私で、自意識で、すなわち脳死は自己の決定的な死であるという考えが主流であるが ...
何がなんでも新人賞獲らせます!: 作家の道をまっしぐら!!
2016/03/14 book-review book, migrated-from-shintaku.co
実に的確な指南がなされており、新人賞を目指すなら一読しておいて損はない良書。 全 ...
先生はえらい
2017/08/12 book-review book, migrated-from-shintaku.co
たちまち魅入られ一晩で読了。これは本当によかった。これからの私の思考の根本に長く ...
食に知恵あり
2012/08/04 book-review migrated-from-shintaku.co
すばらしい本出ました。 内容は深いうえにわかりやすい。そして作者の人間性が端々に ...
キリスト教の救いとは
2018/04/05 book-review book, migrated-from-shintaku.co
興味のない人が読めば、寒い、気持ちが悪い、意味がわからない、で終わるだろう本。今 ...