反転する福祉国家――オランダモデルの光と影 (水島 治郎/岩波書店)

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これからの時代の福祉や移民のあり方を探るのに、オランダほど参考になる国はないと考えさせられる一冊。

特に移民政策については、オランダに限らず、フランスやドイツでも移民に対し自国語や自国の文化を学ぶことを義務化する流れにあるのは興味深い。

これは実質的に後進国からの移民を排除する仕組みとして機能し、新たな排除の形をとっているという問題はある。しかし今後移民の増加は避けられない日本でも、このような政策は、日常生活レベルにおいて外国人との無用なトラブルを避けるうえで有効ではないだろうか。

米国在住のオランダ人コラムニストのH・メースは2007年に出版した著書『パートタイムフェミニズムよさらば!』のなかで、「男性 = フルタイム勤務、女性 = パートタイム勤務」というあり方を、伝統的な男女の役割分担が姿を変えて現れたものに過ぎないと論じ、話題を呼んだ。オランダの女性たちは「自らの選択」としてパートタイムを選んでいるとはいえ、女性が経済的に男性に従属している点は同じであり、実際には男女間の不平等をむしろ固定化している。

同様にジャーナリストのドライエルは、『甘やかされたお姫様たち』で、女性の経済的な自立を重視する立場から、専業主婦の道を選択したり、パートタイム労働を選んで子育てとの「両立」を図る オランダの女性を批判する(Drayer, 2010)。彼女は特に、オランダにおいて「母親」の役割が今もなお神聖化され、母親たちが人生のほかの可能性を捨て、子育てにすべてをささげていることに問題があるという。彼女は労働を一種の「社会的義務」であるととらえ、高学歴であるにもかかわらず、専業主婦を選択した女性に対しては、公費で賄われた学費を返還すべきと主張する(Drayer, 2010, 61)。そのような義務も責任も自覚しないまま、子育てや趣味に時間を費やす女性たちは、「甘やかされたお姫様たち」にほかならないという。

「言語によるコミュニケーション」がポスト近代社会における中核的な「能力」として浮上したことを踏まえれば、先進各国における近年の移民排除の基準に「言語・文化」が据えられたことの意味が理解できるだろう。ここ10年ほどの西欧諸国の顕著な傾向として、移民に対するシティズンシップ付与の条件に当該国の言語・社会慣習・価値観などの習得が求められるようになったことが挙げられる。 (中略) かつての人種差別・外国人排斥は、人種や血統・皮膚の色といった出身・先天的な形質を主たる選別の基準としていた。しかし近年の選別基準は、むしろ言語や文化を習得し、当該社会で「参加」できるのか否かといった「個々人のあり方」に対する評価にシフトしている。移民は言語や習慣といった当該国の「文化」を学び、身につけることで、その社会に「参加」する資格を得て、シティズンシップを認められる。ここでは「文化」は、当該社会に参加するための一種の(後天的に習得可能な)能力という性質を帯びているのである。

インターネットの発達などにより英語化が一層進展しつつあるようにみえる現代において、各国において自国(自集団)の言語の役割が再浮上し、外国人や移民・外部集団に対してはむしろ障壁を高めているという逆説的な状況が生じている問題については、あまりその重要性が認識されていないのではないか。

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