ブランド―価値の創造 (石井 淳蔵/岩波書店)
購入価格: 人に借りた(0円)
評価:
この記事は約2分57秒で読めます
ブランド信仰という言葉がある。その言葉の通り、信じるものには涙が出るほどありがたいものだが、信じない者にとっては屁の突っ張りにもならない。
共同幻想を生きる
我々の生活はブランドに満ちている。牛丼と言えば吉野家だし、ファストファッションと言えばユニクロである。ちょっとリッチに行こうと思えば焼き肉の叙々苑、デパートの三越松屋ということになる。
それらはなんら実態を指し示していないにも関わらず、我々にとって完全に自立した言語表現として機能する。
「「無印良品」ブランドって、何?」と問われて、客観的に何が指示できるのか。ブランドとは、九鬼周造のいう「日本の粋」や山本七平のいう「場の空気」の概念に似て、客観的な存在として存在するというよりも、その存在を了解しあうようなたぐいの存在のようにも思える。
価値はどこからやってくるのか
ブランドは貨幣に似ている。皆が価値があると信じればこそ価値を持つ。見向きもされなくなれば、たちまち価値を失い、ブランドは消滅する。ブランドとは単なる名前ではない。イメージだ。我々はそのイメージを欲望する。
試みに、「一万円」という言葉をつぶやいてみてほしい。我々はそこに、貨幣という無機的な物質なんかではなく、恐ろしく豊かなイメージがともなうことに気がつくだろう。あらゆるイメージは、人間の欲望の変形である。
磯崎氏は、〜中略〜あるスタイルが評判をとり流行となるときには、できるかぎり早くそのスタイルを否定する方向に向かわないとだめだという。
(磯崎新「反スタイル・イッセイ・ミヤケ論」『広告批評』一九九四年一一月号、マドラ出版」)
かつて三島由紀夫が自身のボディビルダー写真のことを謙遜して「逆柱」と言ったのを思い出す。これは「建物は完成と同時に崩壊が始まる」ことから、故意に柱を未完成にしておく俗習だが、どんな世界も、人気は出た瞬間に衰退に向かうものである。
虚栄心とブランド
ブランドという思想は、実に人間くさいものだと思う。よい大学に入ること、一流企業に勤めること、美男美女と付き合うこと、これらはすべてブランド的思考のたまものである。虎の威をかる狐よろしく、我々はブランドによって強くなったり弱くなったり、自信を持ったり失ったりする。
しばしばそのブランド争いに敗れて傷ついて、命さえ捨てる者もある。ブランドなしに人は生きることができない。「平凡な家庭」とて、ひとつのブランドなのだから。
ブランド価値とは、それを手の中につかんだと思ったときには、その指のあいだからこぼれ出してしまうようなものなのだ。
- 前の記事
- カルト宗教信じてました。
- 次の記事
- 詐欺師・ひっかけ商法の最新手口を公開! 騙しのカラクリ
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
関連記事
Children's Book About Manners: A Kids Picture Book About Manners With Photos and Fun Fact
2017/05/29 book-review book, english, migrated-from-shintaku.co
ものを食べる時は口閉じろ。見てて不愉快だと、子供にしっかり教えてんだなあ。 we ...
ゲルハルト・リヒター写真論/絵画論
2017/09/20 book-review migrated-from-shintaku.co
全体的にわからなくはないが、どうも奥歯に物が挟まったような物言いが多くすっきりし ...
戦後引揚げの記録
2021/09/27 book-review book, migrated-from-shintaku.co
私を含め、直接に戦争を知らない世代の人間の「終戦」のイメージは、ほとんどイコール ...
戦後史開封
2021/06/22 book-review book, migrated-from-shintaku.co
ただただ圧巻。辞書並の厚さもそうだが、今日に至るまでに、これほどさまざまことがあ ...
英文法をこわす 感覚による再構築
2017/03/22 book-review book, english, migrated-from-shintaku.co, reread
基本の英文法もできないのに壊すとは、おまえはデッサンのできない画家かという感じだ ...