Chim↑Pom(チンポム)の本質はアートの本質

  2019/10/11

一部の抗議により中止されていたあいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」が今月8日再開された。息つく間もなく今度はチンポムがフクシマで制作した映像作品「気合100連発」が叩かれている。

これはチンポムが2011年の東日本大震災直後にフクシマに入り、現地で出会った被災者の若者と円陣を組み、カメラに向かって思いつくままに100の言葉を叫んだ映像作品である。この作品中において、フクシマの若者が「被曝最高!」「放射能最高!」と叫ぶシーンがあり、これが火種となった。

この部分だけを切り取れば、非難も当然のように思われるが、以下にある美術家の梅沢和木氏の言及こそ作品の本質である。

梅沢 和木(@umelabo) 『気合い100連発は震災が起きてすぐ現地で若者達と仲良くなって撮った映像で、もうヤケクソで叫ぶしかないというか、最低なのがわかっていながら最高と叫ぶしかない嗚咽を超えた結果出てしまったギャグみたいな雰囲気がリアリティとしてあったのかなと思う。』 2019年10月8日 9:56 PM(JST) ツイート

引用元:https://twitter.com/umelabo/status/1181795545267859456

私は十年以上前からチンポムを知っている。それは彼らの所属ギャラリーである「無人島プロダクション」が現在の墨田区ではなく高円寺にあったころからだ。かつて私は個人的にアーティストとして売り込みに行ったこともあるので、ギャラリストから直接チンポムについて説明を受けたこともある。

そこでまず思うのは、この手の炎上を彼らはおり込み済みだということだ。2008年に広島の原爆ドーム付近の上空に飛行機雲で「ピカッ」という擬音を描いたり、2011年の震災直後に渋谷駅構内に設置されている岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」に福島第一原発事故を思わせる絵を付け加えたりし、いずれも叩かれに叩かれた。スキャンダルは彼らのトレードマークの感すらある。

こう並べ立てると、彼らのことを悪ノリが過ぎる若者の集まりのように思う人もあろう。実際その通りで、彼らは軽い、というかチャラい。しかしそれはごく表面であって、その本質は別にある。当たり前だ。そうでなければ世界中の美術館の展示に呼ばれたりはしない。

にも関わらず、世間は一時的な感情のもつれではなく、心底彼らのアートを理解していないらしい。そんな一般人の反応が、以下のツイートによく表れている。

mina(@mina81956933) 『横からすみません。素朴な疑問なのですが、6人の方が気合いを表明することと、チンポムさんが芸術を表現することと、わたしが不快な気持ちを表明することはどう違うのですか?わたしは福島出身です。わたしが不快に感じたことをツイートすると、「叩く」ことや「利用する」ことになるのでしょうか?』 2019年10月8日 7:01 PM(JST) ツイート

引用元:https://twitter.com/mina81956933/status/1181751470640599041?s=20

これはどこまでがアートでどこまでがアートではないかという、その境界線を問うものであろう。確かにチンポムの作品は、何も知らなければただの悪ふざけに見える。実際、先のチンポムが広島の空をピカッとやった時、広島に住む私の母は怒っていた。やっていいことと悪いことがあるとも言っていた。

おそらくこの母の反応は、「ふつうの人」のチンポムに対する評価を代表できるだろう。事実、現代アートとはなんでもありの悪ふざけ(のように見える)なのだ。それでチンポムと世間に実際いるタチの悪い若者との線引きが、ふつうの人にはできない。

その境界線がどこにあるのかと言えば、アートにしようとする意図の有無である。たとえばある若者が渋谷のセンター街でドブネズミをつかまえて黄色く塗ってピカチュウだと言って笑うとする。それは単なる悪ふざけであって、アートではない。しかし、その行為に納得のいく理由(コンセプト)をつけ、美術作品として美術館に入れるんだという意図があればアートになる。

行為としては同じでも、意図の有無で崇高なアートにも、くだらない悪ふざけにもなるのである。そんな馬鹿なと思う向きもあろうが、それが現実で、アートとはそういうものなのだ。美術館に辿りつけないアート未満なものも山ほどあって、その場合はしょうもない悪ふざけとして終わる。

極論すれば、それがアートか、悪ふざけかをジャッジする権利は一般人にはない。決めるのはいわゆるお上で、美術館のキュレーターなどアート界の権威とされる人々である。ゆえにアーティストが誰を相手にアートをやっているのかと言えば、そのお上に向かってやっているのである。

それはどの業界にもある熾烈な出世競争と一緒で、真の評価者に対してアクションを起こすのだ。だからアーティストは一般人なんか眼中にない。一般人を巻き込むとかその反応を作品の一部として取り込むなど、作品の要素としては使うが、本物のプロのアーティストであれば、一般人それ自体に向けて作品を作るなどという愚かなことはしない。無意味だからだ。

もちろん、一般人がああだこうだと好き勝手に言う権利はある。非難も叱咤も気の済むまでやっていただきたい。だが、それはヴォルテールの有名な言葉『私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る』という意味においてなのだ。アーティストが一般大衆によって作品を、展示をつぶされる筋合いはない。

語弊を恐れずに言えば、アーティストと一般人とは住んでる世界が違うのだ。考えてもみてほしい。ノーベル賞受賞者の研究内容なんかはわかりもしないのに盲目的に崇めるのに、現代アートになるとわからないくせに好き勝手ケチをつけるのは傲慢ではないだろうか。いっそ馬鹿ではないか。科学と一緒で、現代アートは万人に開かれてはいるが、万人が理解できるようにはできていない。

どの分野にも、一般人にはとうてい理解できない難解な領域がある。もし人間が、万人に理解できるものだけを作っていたとすれば、いまだ我々は原始人に毛が生えたような世界で生きていたに違いない。

そもそも今これを読んでいるあなたのスマホは、パソコンは、万人には理解できないことばかりやるアーティストみたいなろくでなしが作ったのだ。それを認めないというのなら、そんなわけのわからないゴミは今すぐ捨てて、森へ帰れ。

Chim↑Pom(チンポム)についての関連記事
新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

居酒屋という異次元(後編)

店内に先客は三人いた。ともに、あまり経済状況がよろしくないのだろう身なりで、50 ...

現代アートのオンライン販売TAGBOATにてインタビュー掲載

日本最大手の現代アートのオンライン販売TAGBOATにて、当方のインタビュー記事 ...

アメリカでホームレスとアートかハンバーガー (13) 蓋の蓋の蓋

2024/11/18   アート・美術

六月に入ってなお、カリフォルニアの空は晴れ渡っていた。毎日そのあっけらかんとした ...

グループ展「YOUNG ARTISTS JAPAN Vol.5」2012/10/30〜11/5

展示、今日からはじまりました。ぼくは居りませんが。 しかし土日だけは終日うろうろ ...

松井のことも野球のこともよくは知らないが泣く

なんか松井が引退したらしい。 天声人語をはじめ、各紙のコラムは松井ネタばかりであ ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.