海外に行って何者かになりたいアーティスト

海外に行く――野心のあるアーティストならば一度は考えることである。

よく言われるのは「日本でアーティストは食えない」から。しかし、海外に行けば食えるのかと言えば、そんなわけがない。海外なら「ゴミ」(無名の芸術家の作品)がいくらでも売れるのか。世界はそんなに広くない。この地球上、どこまで行っても我々と同じ人間しか住んでいない。

そんなことは海外に行かなくたってわかる。にも関わらず、アーティストはいまだ海外に夢を詰め込む。

詰め込むのは勝手だが、そんな重いの、行ったらすぐに沈没する。自分探しと同じで、あなたの夢見る海外なんてどこにもない。

アーティストにとっての海外は、大学最後の夏休みにバックパッカーになってインドに行くみたいなもので、行けば何か見つかったような「気はする」だろうけど、その実、見つけたのは現実逃避に使えるマリファナくらいのものだったりする。

短絡的なのだ。「日本=だめ」あるいは「海外=よい」――そんなに単純な世界はない。そこまで馬鹿じゃないと思う向きもあろうが、「日本で活動する私=さえない」、「海外で活動する私=素敵」くらいは頭のどこかにあるはずだ。しかしどちらも同じ、残念な思考回路である。

確かにアーティストを目指す日々はものすごくつまらないし、退屈で、なにより苦しい。そこで海外に行ったとしても、苦しむ場所が変わるだけなのだ。加えて阿吽で通じるような理解者は望むべくもなく、言葉の壁も高くそびえて、宇宙空間に投げ出されるがごとく、ひとり途方にくれることになる。

では一体どうすればということになるが、とにもかくにも海外に行くしかない。行って、そのつまらない幻想を壊してくる。海外に行く価値と言えば、それくらいのものである。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

前の記事
2019/10/04 更新 アメリカとID
次の記事
2019/10/11 更新 Chim↑Pom(チンポム)の本質はアートの本質

最新のブログ記事一覧を見る

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んでも一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。日々の出来事や、思ったこと感じたことをとりとめもなく吐露。死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

アーティストや作家という茶番

時間が経つのは早い。大人になると、なお早い。 2月になった。朝、出社してぼうっと ...

作家とギャラリーの取り分について

作家の人たちと話すと、たまにこの話題になる。要するに金の話である。 世の中は、何 ...

アメリカでホームレスとアートかハンバーガー (15) ホームレスのリアル

2025/01/13   アート・美術

ひとりで行かないほうがいいよ――同僚の女性がゴミを捨てに行こうとすると、上司が言 ...

ターミネーター:新起動/ジェニシス――夢も希望もない時代の夢と希望を見る

すごかった。強かった。かっこよかった。 率直な感想である。ついでに「気持ちよかっ ...

アメリカでホームレスとアートかハンバーガー (6) 働くホームレス

2023/11/19   アート・美術

ホームレスを日がな一日寝て過ごしている怠惰な人々だと考える人は多い。しかし現実問 ...