西洋美術とレイシズム (岡田 温司/筑摩書房)

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写真でなくても、映像でなくても、何百年も前から、プリミティブな絵で、彫刻で、黒人をはじめとするバイアス、偏見があったことがわかる素晴らしい一冊。そして、そのレイシズムは今も連綿と続いている、という負の歴史。

呪術や宗教の起源でもある「誓い」の言葉が、反対に「呪い」にも転倒しうることとも関係している。実際、たとえば英語で「信仰」を意味する「デヴォーションdevotion」の語源となったラテン語の「デウォーティオdevotio」には、「祈願」と「呪詛」の両方の意味がある。「神聖な、神に捧げられた」を意味するラテン語の「サケル」にもまた、反対に「呪われた」という意味がある。つまり、「祝福の言葉としての誓いと、呪詛の言葉としての呪いとは、同じ言語活動の出来事のうちに、同じ起源をもつものとして内包されているのである」。 (中略) 原始語のなかには、正反対の意味を同時にもつものが少なからずあることは、精神分析の生みの親フロイトもまたお気に入りのテーマであった。 そもそも、ラテン語の「宗教religio」という語からして、「敬虔」の意味もあれば、逆に、「瀆神」や「背信」の意味もある。両者は表裏一体であり、紙一重でもある。これはまた、「レリギオー」つまり「宗教」という語が、「結びつける」という意味の「レリゴーreligo」にも、逆に、「遠ざける」という意味の「レレゴーrelego」にも近いことと関係しているかもしれない。

いずれにしても、キリスト教はその始まりから、「奴隷」という身分にたいして、むしろ両義的な立場をとってきたように思われる。キリスト教における普遍主義とは、つまるところ、自分たちの一定の優位を担保したうえで成立してきたものに他ならない、といううがった見方もあるほどだ。あえて通俗的な言い方を使うなら、「上から目線」ということだろうか。

エジプトを「淫行」や「姦淫」や「不貞」のはびこる土地とみなすステレオタイプの偏見は、すでに旧約聖書の「エゼキエル書」(23章)でことさら強調されているから、まんざらありえなくもないだろう。いわゆる「オリエンタリズム」の遠い起源はこんなところにもありそうだ。

すなわちシバの女王にせよ、アンドロメダにせよ、クレオパトラにせよ、西洋絵画のなかで飽くことなく脱色され漂白されてきたのは、いずれも女性のキャラクターだ、という点である。このことは、繰り返しを恐れずにいうなら、レイシズムがセクシズムとも結託してきたことの証左となるだろう。黒い肌の女性は、二重のくびきを負わされてきたのである。

     

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コピペでそのまま使える感じではあるが、ちゃんと覚えて血肉としなければ意味がない。

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