日本人の死に時—そんなに長生きしたいですか (久坂部 羊/幻冬舎)

書籍日本人の死に時—そんなに長生きしたいですか(久坂部 羊/幻冬舎)」の表紙画像

購入価格:354

評価:

この記事は約2分31秒で読めます

殺人、拷問、そのほか一般的にグロとされているものに目がない人間なので読んだが、本書はそんな下世話な人間の興味本位を軽く超えて秀逸である。ドストエフスキーの罪と罰の深淵なテーマにもつらなる人間存在、その内奥に対する考察が素晴らしい。「いい人/悪い人」、「善/悪」と、単純に断じてしまう昨今のメディアが見つめ直すべき指摘が詰まっている、と思う。

私は人は誰でも人を殺してしまう可能性はあると考えているが、複数を、というよりも、大量に一人ずつ人を殺すことができる人は、ある種の条件が揃った人だけだと考えるようになった。

彼と関わっていくうちに実感したのは、キレるとどうなるかわからない暴力的な顔を持つ反面、人懐っこくユーモアを交えた会話を好む〝愛敬〟を持っているということだった。 私が「なにか差し入れて欲しいものありますか?」と尋ねると、孝紘は悪戯っぽい表情で言う。 「愛」 思わず吹き出した私が、「もう少し現実的なもので……」と返すと、「なら自由」と続けるのだ。 四人が殺されている。遺族の感情を逆撫でする発言である。だがその場にいる私はつい笑ってしまうし、可愛い奴、との感情を抱いてしまうという現実がある。殺人者とは〝冷血〟な存在であるという私の先入観は覆されていた。

読み手の多くが持っているはずの(もちろん僕もだ)それらの先入観は、言い換えれば、殺人犯と自分とを隔てる一線である。「自分は奴らとは違う/だから決して自分はあちら側には行かない」という護符でもある。 その護符があるかぎり、われわれは彼らや彼女たちの所業に、安心して戦慄できるし、心平らかに動揺できる。新聞や雑誌をめくって「もう、マスコミもここまで詳しく報じなくてもいいのに」とつぶやきながら、それでもページから目を離せない。居たたまれなさに安住できる。スマホやテレビのモニターを凝視して「こんなひどいことがどうしてできるんだ……」と、顔がこわばり、凍りついてしまっても、動かないはずの頰が、動かないまま下世話にゆるんでしまう。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

同時通訳者が教える ビジネスパーソンの英単語帳 エッセンシャル

文法を学び、自在に構文を組み立てることができるようになっても、限界がある。言葉は ...

たべもの文明考

ほんっとすばらしい本。 ぼくが愛するのはこういう本だという代表のような内容で、と ...

難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!

人生の豊かさはその振り幅で決まる、と思うので洗礼の翌日は聖を振り切って俗にひた走 ...

英語の質問箱―そこが知りたい100のQ&A

最近めっきり読書量が減っている、わけではなく、ひたすら英語関連書籍を乱読及び、暗 ...

窮地にいるエンジニアは、ズルい処世術で困難を突破する

「ズルい」という言葉にはギョッとさせられるが、しかし、ズルくない人はこの世にはい ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.