組織アイデンティフィケーションの研究 (小玉 一樹/ふくろう出版)

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妹の夫の父親が本書の著書であるため、もったいなくもご本人から直接いただいたありがたい本である。
そのため、とても悪くは言えないという義理人情が絡まなくはないが、しかし、少なくとも悪い本ではない、とは思う。
会社は私、私は会社
エリク・エリクソンの言葉である自己同一性、いわゆるアイデンティティという言葉を初めて知ったのは高校の倫理の授業であった。
ちょうど多感な思春期だったこともあり、「自分が自分であること」という説明がやけに印象深く、以来、どうしようもない落第生だった私の頭に忘れず残っている。
本書では、個人と組織の関係を表す概念として、同一視(Identification)に着目している。 (中略) 「個々のメンバーがグループによって受け入れられている価値を自らのものとし、それによってグループが各自の『自己』の延長線上に位置づけられること」と定義する
本書は個人が組織(会社等の団体)を自己と同一であるとみなすこと、俗に言う会社人間を体系的に研究せんとする試みである。
存在意義を国家≒会社に預ける
「モーレツ社員」という言葉が流行語となったのは、高度経済成長期まっただ中の1965年である。モーレツ社員とは、つまり自分の属する企業に対する忠誠心の高い社員である。
それはきっと、社員というよりも兵隊といった方がしっくりくる。戦中、お国に対する滅私奉公の玉砕精神が、そのまま会社に置き換わっただけなのではないかと、何かで読んだ。
「(B社らしい人といわれると)率直に、うれしいですね。この地域にいる人の多くのB社に持っているイメージというのが、綺麗、清潔、店員さんの態度がいいとか、評価にかんして 良いものをいただいているので、それを自分に置き換えてもらえるのであれば、うれしいというか、光栄ですね」
会社と自己を同一視して満ち足りるというのは、日本人の心根に合っているのだと思う。出る釘は打たれる日本において、企業や団体に自分の存在意義を預ければ、少なくとも角が立つことはない。
戦時中、アメリカ兵が日本兵の行動で不可解だったことがあるという。日本兵は、自分の所属する編成部隊の構成員には実に献身的で甲斐甲斐しかったが、他方、同じ日本人でも他の編成部隊の者には冷淡だったという。
この種の了見の狭さ、島国根性の極北は、いまも脈々と受け継がれているように思うが、どうだろう。
会社のキャラクターを演じる
とりわけ興味深いのは、個性的な会社であればあるほど、個々の社員の帰属意識が高まるという調査結果である。
正規・非正規に関わらず自社には他社とは相違した独自性があることを強く認識することによって、自発的な行動をとるといえるであろう。 (中略) 組織アイデンティフィケーションに影響を及ぼす要因は、内集団と外集団を区別することであり、我々は他社とは相違しているという認知が組織の成員であるということ明確にするといえる。
極論すれば、日本人は我の強いユニークな個人は嫌いだが、特徴あるとがった会社は好きということである。
あるいは、こうも考えられるかもしれない。組織に自己を埋没させる、溶け込ませることで、個人としては日本人的奥ゆかしさを担保しつつ、しかし会社の仮面でもって堂々と個性的であることを謳歌する。
だとすれば、外国人が日本人の薄ら笑いを気味悪がるのも、決して故のないことではないのかもしれない。
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